暇な部活生たちのせいであちこちで雑音がする。
キンッという金属バットに軟球が当たる音。
野球部・ソフト部・サッカー部・陸上部……。
とにかくいろんな部の掛け声だとか、吹奏楽部の楽器演奏なんかの音も混ざる。
マーブルな感じの音がする。 プァーッチリンチリンキンッファイトーッオーッモーイッポンプァーッファイトーッシューゴーファイトーッ…… もうわけがわかんない。 残って委員会の仕事や日直の仕事をしている者の気分にでもなれ。 こんなことを考えていたのに。 誰もいないと踏んでいたはずの本来自分の所属するクラスの教室には女子生徒が1人。 それも窓際の特等席に、だ。 まぁ1人だけしかいないからって使っているだけかもしれないし、そこら辺はあえてつっこまないことにする。 けれども僕が入ってきた瞬間に見せたあの表情は許せない。 僕は何もしていないというのにその女は僕のことをキッと睨みつけたのだ。 ……まぁ一瞬でその表情は驚きに変わったわけだけど。 一体誰だと思ったんだ、この女は。全く、いい迷惑。 「何、その顔。君、噛み殺されたいの?」 いつも通りに言う。流石にトンファーを出す気にはならなかったけど。 全く、今日の僕はどうしたというんだ。 いつになく、甘い。 「不機嫌そうな顔をしていたのならごめんなさい。人違いだったの。数学教師兼このクラスの担任である人が入ってきたのかと思っただけ。」 何だ、そんなことか。という思いとは裏腹に、ふーんという気のない返事が僕の口から出てきた。 にしてもさっきの驚いた表情の後から彼女(……名前、知らないな。何ていうんだろ?)の表情は変わらない。 無表情でボクのほうをずっと見ている。 そのせいで課題だろうか……?とにかく彼女の手元にあるプリントは放置されたままで、さっきから全然手は動かない。 いや、そんなことより僕の席はどこなのだろうか……? せっかく自身の教室までわざわざ来たのだから1度位席についてみようと思った。 彼女が座っている窓際の席だといいのに。 そうすればもしかしたら僕も毎日ここで授業を受ける気になるかもしれない。 毎日応接室で仕事というのもそろそろ飽きてきた。 毎日同じ風景。同じ人物の出入り。似たような人物の始末エトセトラ。 飽きないほうがおかしいんじゃないかと思う。 しかしあいにく席を調べようにも座席表は見当たらない。 無能な担任め。 彼女が睨むのも無理はないんじゃないかと思い始めた。 「ねぇ、それより僕の席ってどこ?」 「えっ……。ここ、ですけど。」 彼女は相変わらず僕の方を見ながら淡々と言った。 指差されたのは彼女の右隣の席。 最上ではないにしても、わりと良さそうな席だ。 もしかしたらこっちのほうがいい席だ、なんてこともあるかもしれないし、とりあえず僕は座ってみることにする。 いつもの応接室のいすと違って堅いし、座り心地はとてもいいなんて言えない物だった。 実際に座ってみて思うのだけど、やっぱり今彼女の座っている席の方が断然いい気がする。 なぜかというとやっぱり景色だ。 彼女の座っている席は例えば授業中にボーッと空を眺めてみたりするときなんかに視界を邪魔されることなんてないだろう。 僕は案外そういう時間が、好き、だ。 「ねぇ、君。」 「は、はい。」 さっきから彼女は僕を見たままで止まっている。 そんなに僕という存在は彼女にとって異質なのだろうか……? でも、彼女からは草食動物のような雰囲気は受けない。イヤな感じがしない。 (なぜだろうか……?敬語、じゃなかったから……?さっきから改まった話し方はしているけど、初めは違った。 でも1番の理由はきっと違うだろう。 僕におびえていないこと……?まさか!僕はそんなことどうだっていい……はず。 しいて言うなら噛み合っていない表情と口調かもしれない。 無表情なのに、狼狽したような物言い。彼女には悪いけど、面白い。) 「名前は?」 「 、 、です。」 「そう。」 後ろにもたれてみると、ギシッと音が鳴った。 あぁ、やっぱり耐えられない、景色を見るのだって誰かに邪魔される上にこんな堅いいすに座るなんて。 応接室のいすみたいな物か、窓際の特等席。どちらかでなければ。 僕は我慢ならなくなって立ち上がる。 換えてしまおう、こんな席。 「あのさ、 さん。そこ、君の席だよね?」 ようやくプリントに目を移した彼女を呼ぶ。 今度は彼女は顔を上げずに無言で頷いただけ。 「ふーん。じゃあ席、換わってよ。」 彼女は再び上げた。そしてまたも無表情。 (今、やっと気付いたんだけれども、彼女はさっきから固まっているだけなのかもしれない。) まぁどっちにしても |