キンッと金属バットに軟球が当たる音、運動部の掛け声、楽器のプァーッという音エトセトラ。 色んな音が混ざり合ってあたしの耳に入ってくる。
しかし、やっぱり何と言っても1番近くで聞こえるのは紙とシャーペンのこすれる音だ。 ざらばん紙に書くのはノートと勝手が違って書き辛い。 プリントの所々にはあたしがシャーペンで開けた穴がある。 そのせいであたしの苛立ちは増す。





クソ教師が……!!





とあたしは1人呟く。
きっと奴は放課後にたった1人で居残りをして、黙々と無意味な数字の羅列に立ち向かう者の辛さを知らないに違いない、とあたしは思う。 でなければ底意地の悪い野郎だ。
そう思いながらあたしは紙面を埋めていく。




















「終わった……。」





そう呟いたもののまだそれは1枚目の話。 気丈にはまだあと2枚のプリントがある。 もう30分もたったというのに……。とあたしはうなだれる。
そのとき教室に誰かが入ってきた。 あたしはあのクソ教師が催促をするために入ってきたのかと思い、キッと睨みつけるくらいの気持ちで顔を上げると、そこにいたのは予想外の人物。 雲雀恭弥だった。
恐怖の風紀委員長は学校に来ても、教室には1度たりともこれまで足を踏み入れたことがなかった。





「何、その顔。君、噛み殺されたいの?」





彼は不機嫌そうに言った。 端正な顔が歪む。けれどもあたしは歪んでもなおその顔は美しいと思った。 ……決して口には出さないけれど。





「不機嫌そうな顔をしていたのならごめんなさい。人違いだったの。 数学教師兼このクラスの担任である人が入ってきたのかと思っただけ。」



「ふーん。」





彼はそんなことになど興味がない、といった様子で、とりあえず、にしかすぎないような気のない返事をした。 ……というかむしろ相槌を打った。





「ねぇ、それより僕の席ってどこ?」



「えっ……。ここ、ですけど。」





鋭い眼差しを当てられて思わず敬語になる。(同い年なのに……。) そしてそう言いながら彼の席、でかつあたしの隣の席を指差す。 途端に彼はこっちに向かってくる。 ……もちろん無言で。しかも不機嫌そうに。 席が気に入らなかったのだろうか……?
いや、というか廊下ですれ違っても、誰かをボコった後を目撃しちゃっても、いつだって彼は不機嫌そうな表情なのだから、 この不機嫌そうな表情が彼の通常の表情なのかもしれない。
プリントから目を離したまま、彼に目を奪われたままあたしはそう思い直した。
彼はガタガタと椅子を下げると腰をかける。 いつも彼が腰掛けているであろう応接室の椅子は、パッと見ただけでもふかふかそうだとわかるような高級な物だろうから、 こんなチャチな木の椅子は彼にはさぞかし辛いものだろう。





「ねぇ、君。」



「は、はい。」





不機嫌そうな(でも多分通常の)声で彼はあたしを突然呼ぶ。 あたしは彼のことを見たまんまだったから、その瞬間バッチリと目が合う。
夕日に照らされて黒髪が輝いていた。





「名前は?」



、です。」



「そう。」





そう言ったかと思うと彼は立ち上がった。 ……にしてもあたしなんかの名前を聞くなんて彼は何を考えているのだろうか……? ま、まさかリンチ……!?
そんなことを考えていると彼は椅子を机の中に入れた。ガタガタとまたも鈍い音を椅子は立てる。





「あのさ、 さん。そこ、君の席だよね?」





彼はあたしがプリントに視線を戻したかと思うと、もう1度あたしのことを呼んだ。 あたしは無言でうなずく。





「ふーん。じゃあ席、換わってよ。」





……はい?





思わず聞き返しそうになったが彼は無表情。










He shows no emotion!










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