朝のショートホームルームの前のことだ。
山本がクラスの野球部の奴2人と一緒に教壇に立つと、突然「ちゅうもーく!」と楽しげに言った。
オレを含め、みんな驚いて山本を見る。





「今夜神社で肝試しやろうってオレたちで企画したんだけど、来れるやつはこの紙に名前書いてな!」





山本はそう言うと後ろの掲示板に勝手に紙を貼る。もちろんその紙には山本とあとの2人の名前がすでに書かれていた。





「十代目はどうします?」



「オレ?」





獄寺君は一見楽しくなさそうにしてるけれど、素直じゃないから本当の所、どう思っているかわからない。





「ツナはもちろん来るよなっ?」



「うわっ!」





後ろから突如現れた山本にオレは驚く。獄寺君は「十代目に何してんだ!」と憤慨している。





「わりぃわりぃ。でもツナ来ないのか?来るだろ?」



「あぁ、うん。行く行く。行くよ。」



「十代目が行くならオレも。野球バカ、あれに書けばいいのか?」



「あぁ。」



「じゃあオレ十代目の分も書いてきます。」と獄寺君は名前を書くための列に加わった。





「山本くんっ!絶対楽しいし行くべきだよね?」





唐突に前方から明るい声がやってくる。話し掛けたのは毒島さんで、彼女は さんに詰め寄るような形で顔だけこちらに向けている。





「おぉ、オレたちが絶対楽しくするからなー。」



「ほら、 も行こうよー。」



「毒島も も来いよー。」





山本はふざけて毒島さんと一緒に言う。
さんは困ったように笑って、か細い声で「じゃあ、行く。」と言った。





「よっしゃ!」





毒島さんは嬉しそうにそう言うと、再度向き直る。





「時に山本くん。」



「?」



「悪いんだけど山本くん。あたしこんな名字だからさ、名字で呼ばれるのあんまり好きじゃないんだ。だから でいいよ。 ダメツナも、ブスジマさんとか言ったら怒るからね!」





ちょうどそのとき都合よくチャイムが鳴り、先生も教室に入ってきた。






























その夜、予定通りみんなで神社に集まった。
山本が仕切る元、くじが引かれ、次々に男女の2人組が出来ていく。





さんと一緒ならいいのに……。





気付けばそんなことを自分が思っているということにオレは気付き、1人赤面してしまった。
顔の辺りだけが異常に熱い。オレは薄暗くてよかったと心から思った。
どきどきしながらペアの人を捜していると、オレと同じ1番を引いたのは さんだった。
さんは失礼なことにあからさまにがっかりした。
しかし内心オレもガッカリしているわけだし、あいこなのかもしれない。
オレたちは無言のまま向き合って、苦笑する。





「悪ぃ、ツナ。」





ちょうどそのとき山本がオレの肩を叩いて呼んだ。山本の手には15番と書かれたくじがある。





「オレ実はお化け役代わらなきゃいけねぇからさ、最初の方で行かなきゃなんねぇんだ。ツナ1番だって言ってたろ?代わってくんねぇかな?」





オレは断る理由もなく、二つ返事でくじを交換する。
さんの方へ向かった山本を見送る。
さんは山本が自分とペアになったと知ると、さっきまでとは全然違う表情になって、オレは思わず目を反らしてしまった。





酷く恥ずかしい。





オレはペアを捜さなきゃ。と思い、しゃんとする。





「15番の人ー。」





オレが2、3回そう声をあげると、ふいにTシャツを引っ張られたような感覚がして振り返る。
そこには さんがいて、「あたし、15番だけど……。」と恥ずかしそうに言った。






























オレたちは何も話せないままでどんどん暗闇を歩いた。微妙な距離がオレたちの間にはある。
オレはどうしたらいいかわからず、ちらちらと さんの方を見るのだけれど、彼女の表情は曇っていてなんだか切ない。










「ねぇ。」とオレが話し掛けようとした瞬間、山本が化けたお化けが出てきて、驚いた さんは駆け出した。
ケラケラ笑う山本を後にして、オレは彼女を追う。
さんがまるでオレから逃げたような気がして、オレは切なくて走った。










「待って。」





オレが さんの手首を引っ張って、ようやく彼女は止まった。
彼女の手はひやりと冷たくて、緊張していたのがすごくよく伝わってくる。





「怖かった……。」





さんは俯いて手の甲を目の辺りに当てた。もしかしたら泣いているのかもしれない。
オレはどうしたらいいのかわからなくて、とりあえずチビたちが泣いたときにするみたいに背中をさすってあげる。





「さっきの山本だよ?」



「そうなの?」



「うん。」



「……あたしね」



「うん。」



「実はお化け屋敷とかもダメなの。」





さんはそう言うとやっと顔をあげた。





「だから早く済ましちゃいたい。」





さんはそう言って歩き出した。オレも彼女の隣を歩く。
さっきよりオレたちの間は狭くなったけれど、会話はなくて、ただただ夏の虫の声だけが耳に染みた。




















夜は静かで、ひどく淋しい。
ゴール間際、 さんを見つけて駆け出した彼女のスカートがひらりと揺れた。





     ☆+゜     





ひらり切なさは夜を飛ぶ