ごみ袋の中の大量のごみと片付けの途中の床に広げられた荷物とで、本来は広かったはずの の部屋が狭く見える。 衣類本ガラクタ小物かばんノートパソコン文具ダンボールエトセトラ……。 とにかくごちゃごちゃとマーブル。 汚すぎて逆に生活感が失われてしまった空間と化してしまっていた。





「おい、 、てめ……何してやがんだ……?」





オレがそう言うと は片付けの手を止めた。
けれども が手を止めたのはいいが、オレもあいつも何も話さないせいで、雨音が煩い。
何か話せ。とオレは に言ってやりたい気分でいっぱいだったが、いくらオレでもわかってる。 今のこいつにオレにとって何か意味のあることが言えるはずがないなんてことは。





、お前



「あたし……実は……本当は、ボスには言っていなかったんですけど、前から引っ越す予定はしていたんです。」





オレは の言葉で固まってしまった。決意は一瞬で砕け散ってしまったのだ。





「スペルビと一緒に住むために、でしたけど……。 もう部屋も見つけてあったんです。 あとはもう荷物まとめて引っ越してしまうだけ、っていう状態だったんです。 任務が終わったら1日お休みをもらって、荷物まとめて、引っ越そうって、言ってたんです。 それに彼、……スペルビは、あたしが嫌なら、ここ、やめてもいい。 オレがその分働くから。って、そう言っててくれたんです。 だから、あたし本当はこの任務が終わったら、元々やめるつもりだったんです。」





それだけ言うと、 はまた荷物を段ボールの中に詰め込み始めた。
少しずつながらも、床が広くなり始めたのがわかる。










オレはどうしたらいいんだろうか……?



オレはこいつに何がしたくてここに来たんだろうか……?



こいつは、何を望んでるんだろうか……?



そんなこと決まってる。あのカス鮫に戻ってきて欲しい。ただそれだけだ。
(もしオレに奴を生き返らせる力があれば。なんて馬鹿な考えを起こした自分は愚かだ。)




















「おい。」



「……何でしょうか……?」



「雨、降ってんだろうが。引越しには向かねぇよ。今日はやめとけ。ここを出るなら明日からだ。」



「それほど変わるとは思えません。」



「……明日なら部下に手伝わせられるだろうが。」



「人様に迷惑を掛けるなんてなおさら無理です。」



「オレの厚意だぞ。素直に受け取っておけ。」



「……。」



「返事はどうなんだ。」



「そう、ですね……。わかりました。」





は一瞬躊躇った後そう言うと、荷物を詰める手を止めた。
オレは不覚にも安堵を覚えた。
なぜだ?たかが部下1人にオレは、オレは……





「それならみんなに挨拶してきます……。」





そう呟く様に言うと、 は部屋から出ていった。 後にはオレ1人残された。
窓の外では激しい雨が降っているらしい。 雨音が煩くて、耳につく。
オレはイラついて段ボールを蹴ろうとしたが出来なかった。
オレが腹を立てているのは にでもカス鮫にでもなくて、オレ自身に対して、だった。
そう、オレは本当はやめるな、とそう一言言ってやりたかったはずなんだ。
もっと言うなら、好きだ、と言ってやりたかったはずなんだ。
オレはなんて愚かなんだ。



だけど一つだけ本当があるとしたら
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