部屋に入ると、オレは倒れ込むようにして、革貼りの椅子にもたれかかった。
妙な疲労感が全身を襲っている。
相変わらず雨の降り続く外を見ると、窓に映ったオレは、姿形だけがオレで、残りは別の誰かみたいに見えた。 もしかしたら、オレの影を借りた死人なのかもしれない。なんていう非現実的で夢みたいな考えが一瞬過った。



馬鹿らしい。



いっそそんな風に一蹴してしまえれば、どんなに楽だろうか……?
そんな考えを認めたくなるほど、窓の向こうのオレは死人みたいでオレじゃないモノだった。
窓が酷い風に揺らされて、オレの影が、震えた。雨粒が顔の辺りについて、涙みたいだった。



馬鹿らしい。






























ゴツゴツという繊細さを欠いたノックの音に起こされた。
気分が悪い。
ノックをする音だけで誰だかわかるような、あんな野郎に会わなければならない(それもよりによって寝起きに、だ。)のかと思うと気が重い。





「なんだぁっ!?」



「失礼します、ボス。レヴィです。」



「んなことはわかってんだよ!用件は何だと聞いてるんだ。」



「はっ!失礼しました!スクアーロの引き継ぎ業務についてのお話がありまして……。」



「ちっ。」





レヴィの話によると、生前のスクアーロは幹部の中でも1、2を争うほどたくさんの業務を抱えていたらしく、 このまま引き継ぎが滞っているとすぐにヴァリアーが機能しなくなるらしい。
死んでからもオレの手を煩わせるとは、あのカスはどこまでもカスだ。





「それで、溜まっている報告書だとかはどうなってる……?」



「いえ、それがまだ……。」



「あぁっ!?」



「はっ!それが……。」



「それが……」



が遺品の整理のためにスクアーロの部屋を空けないんです。 本人は報告書なども全て整理してから引き渡すから、と言ってまして……。」



「……。」



「す、すいません!無理矢理明け渡しさせましょうか?」



「……いや、いい。」



「では、どうなさるんですか?」



「オレが行く。」




















レヴィの野郎を追い払ってスクアーロの部屋に向かうと荷物はきれいに片付けられていて、あとには と仲のよかったルッスーリアが残されていた。





「あら〜ボスじゃないですか〜。こんな所へどうしたんです?」



「引き継ぎ業務の手続きに必要な書類と報告書を取りに来ただけだ。その位わかんだろうが。」



「それなら ちゃんがまとめてくれましたよ〜。あの子ったら大丈夫かしらん?窶れてたみたいだけど……。」



「……あいつはどこだ?」



「あいつって…… ちゃんのことですか?」



「考えりゃわかるだろうが。」



「それなら疲れたから部屋に戻るって……ってちょっとボス、書類は!?」



「……レヴィに押し付けとけ。」





ルッスーリアの気持ち悪い文句が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。
雨音はまだやまない。




















、入るぞ。」





ノックもせずにドアを開けるとそこには荷物をまとめているあいつがいた。
段ボールに次々と物を放り込んでいく。
よく見ると はないていたらしく、涙の筋が2つあった。
泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな。
どんな風にであれ、どんな理由であれ、オレはお前が泣いているというただそれだけで……
オレはあいつに今どうさせたくて、今オレはどうしたいんだ……?
ただ抱き締めたいなんて思ったオレはなんて馬鹿、なんだ。



ねぇ泣かないで愛したいだけ
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