「えっ……。山本君ってあたしのストーカーだったんだ……。」





冗談のつもりで言ったのに、本気にしたのか、綱吉はえぇっ!?といつもどおりのオーバーリアクションで受ける。 当の山本はというと、 ー、残念ながらツナに怒られちまうからその線はねーんだよなー、と言った。 もちろん、相変わらず見てる方を脱力させるような笑顔で、だ。





「じゃ、じゃあ何で山本君はここがわかったの!?」



「そんなのツナのお母さんに聞いたに決まってんだろ。親切にも地図まで描いてくれたぜ。」





ななさーん!?





あたしが固まっていると、山本君はそれを察知することなく地図をあたしたちに嬉しそうに見せた。




















種明かし




















「つかさー、俺だって最初はツナん家行ったんだぜ。 けどツナいねぇからさ、どこにいるか聞いたんだよ。そしたら場所だけでいーって言ってんのに地図まで描いてくれたんだって。ほんっとにツナのお母さんやさしーのな!! 俺 の家知らなかったし、場所言われてもバカだから覚えとける自信なかったんだけどな。 まぁ何にしても宿題が終わる希望がほんの少しでも見えたのなー。」





あははははー。ってな感じでにこにこしながらそう言い終えると、山本君はさーんじゃ宿題やるかーと張り切っていった。
えらく切り替えはえーなおい。
あたしのやる気は山本君に吸い取られたんじゃないかと一瞬思ったから 「お前があたしのやる気を奪ったんだろうが!宿題やる気なんて出ねぇよ。」 とでも冗談交じりに言ってやろうかと思ったんだけど、 よく考えたらあたしは山本がやってくる前から綱吉のことがやけに気になって金魚の話だとかしていたことを思い出した。










金魚の鮪の名前の由来……山本君なら気付くだろうか……?










普段は全然そんな風には見えないんだけど、山本君って案外鋭いことをたまに言ったりするんだよなぁ。 しかも確か山本君の家って寿司屋だし、そういう意味では綱吉よりアドバンテージがあると言えるのかもしれない。
……なぁんて関係のないことをあたしはまたもぼんやりと考えた。何してるんだ。




















「あーここわかんねぇー。ツナーここわかるかぁ?」



「あーこれ難しいよな。俺もこれわかんなくてリボーンに教えてもらったんだよ。 にも山本が来る前に教えたんだ。」



「やっぱり難しいよな!?んじゃ解説頼めるか?」





ここをxと置いて、こっちもyと置く。あとこれもzにするんだけどここをこうして……





「おーすげーこうすればちゃんと解けるのなー。」



「うん。にしても山本わかるの早いよな。俺や の倍位解けるの速かったし。」



「んなことねーよ。教え方が上手かったんだろ。 それよりさぁ、ツナって のこと って下の名前で呼んでるのなー。 もツナのこと綱吉って呼んでるしなー。」





お前ら仲いーんだなっ!と山本君は言うと、麦茶(さっきあたしが出したやつ)を飲み干した。 綱吉は未だに固まっている。あたしも固まる一歩手前。





「やだなー山本君。あたしたち幼馴染だよ?昔から読んでるから名残みたいなもんだよ。」



「そういうもんかなー。俺はそういうのって気付いたら苗字で呼んでたからなー。」





あたしも綱吉も山本君の言葉に硬直。ん?と不思議そうな顔をしている彼が少し煩わしく思える。
なんだか変な空気になっちゃったから山本君の空になったグラスをあたしは取り上げて、おかわりもってくる、とだけ言うと部屋を出た。










部屋に戻ると山本君は真剣に宿題をしてて、綱吉はなぜか不機嫌そうに漫画読んでて、戻らなきゃよかったって言いたくなるような空気だった。
綱吉、山本君と喧嘩でも、したのかな。あたしと仲良しだって言われたからかな。
そんな風に思えてしまって少し……じゃなくてすごく悲しくなった。戻らなきゃよかった。ずっと台所でうずくまっておけば……よかった。
胸がうずく。今までよりもずっとずっと、酷く。
あたしはこの痛さの原因に気付いていても、目を逸らしていた。だから今そのツケで痛いんだろうって思う。





「はい。麦茶のおかわり。」



「サンキューな。そういえば って金魚飼ってるのな。」





窓際を指差しながら山本君は言った。水面が、日差しを受けて光っている。ゆらゆら揺れている。





「あれって縁日の金魚すくいとかのやつだろ?それにしては1匹だけデカくない?」



「あぁ、うん。それは綱吉がいらないって言ったからもらったやつ。 デカいから金魚の鮪、って名前まで付けてあげたの。」





マジかよー、と山本君は笑いながら言った。 対照的に綱吉を横目で見ると相変わらず不機嫌そう……むしろさっきより不機嫌度が増してるんじゃないかとあたしは感じた。





「じゃあさ、 。」



「?何。」



「それってもしかしてツナの名前から取ったろ?」





あれ?鮪がツナで鰹がシーチキンで合ってるよな?もし逆だったらマジで語呂悪いんだけど、金魚のシーチキンって。 あっ、でも金魚の鰹になんのかアハハハハ……。
1人でウケて笑っている山本君。に向かってあたしは心の中で正解、と小さく呟いた。
嬉しいような、悲しいような複雑な気分。加えて、さらに酷くなった胸のうずき。
綱吉に気付いてほしかったな。
当の綱吉はよっぽど驚いたのか固まっていた。
バカ。
もっと早く、山本君より早く、気付いとけよ。
……あたしも充分馬鹿、だけど、今頃になって綱吉、あんなのことが好きだって気付いたんだけど、あんたは金魚の鮪のことにもあたしの気持ちにも気付いてないじゃん。 こんなことで勝たないで、金魚すくいで、勝てよ。バカツナのダメツナ。





(状況飲み込めないんですけど!?) ☆彡 (え?麦茶もう1杯?)