「そうだ綱吉。」



「何?突然。」





さっきから30分もたってるっていうのにまだ3ページしか進んでいない さん。と嫌味を言って綱吉は漫画から顔を上げた。




















金魚の鮪






金魚の鰯





















あたしは綱吉の嫌味を無視して話を続ける。 (っていうかこいつ人ん家来て何してるんだ。宿題を教えに来たんじゃないのか……?)





「綱吉からもらった金魚に名前付けたよ。」



「なんて名前?」





義務で答えるような口調で答えるかと思っていたのに、予想に反してちゃんと質問してくれた。ちょっと嬉しい。 (ついでに言うと漫画も閉じてくれたしね。)





「あのね、金魚の鮪。」





……。





無言。綱吉は固まっている。





「えっ……。あたしなんかまずいこと言った!?」



「…… 。俺さぁ、いくらなんでも金魚の名前でウケ狙う必要ないと思うけど。」



「酷い綱吉。あたし一生懸命考えたのに。」





綱吉からもらったから。
名前、一生懸命考えたのに。金魚鉢だって思ったよりずっと高かったけどかわいいと思ったやつにしたのに。
(八つ当たりだってわかってる。金魚のせいじゃない。あたしが勝手に舞い上がって、張り切っちゃっただけなんだ。バカ。あたしのバカ。 何を自惚れているんだ。綱吉は優しいから……。その優しさはあたしのためだけにあるんじゃなくて、みんなのためで、ただ、それだけなのに。)





「わかったわかった。金魚の鮪だね。いいじゃん。」





いつもの呆れ顔で綱吉は言った。 そして5秒位変な間ができちゃったから、それを必死に埋めるみたいにして、ほかの3匹の名前はないの?と聞いた。
(その優しさ、が逆に、痛い。傷つけるんだよあたしの心を。)





「やだ言わない。綱吉はどうせまたふざけた名前だとかウケ狙いだとか言うに決まってるんだもん。」





言わないよ、と綱吉は言ったけど嘘だろうなぁと思う。いや、別に根拠なんてこれっぽっちもないんだけど。 きっとあたしは不貞腐れているんだ。綱吉が気付かなかったことに。金魚の名前が綱吉から来てるってことに、綱吉が気付かなかったからだ。





「言いたくなかったら別にいいよ、もう。」



「わかったわよ。言えばいいんでしょ言えばっ!!」





どっちなんだよ、とまた綱吉は呆れたように苦笑した。





ほんと、どっちなんだよ。



あたしはこんな顔を綱吉にさせたかったわけじゃないのに。





溜息を1つついてからあたしは口を開く。





「金魚の鰯。」





え?





ほうらやっぱり、と頭の片隅で声がした。
無言。綱吉はまた固まっている。





「そ……それは単品で、だよな?3匹のうちのどれ?」



「見分けがつかないから3匹まとめて金魚の鰯。」





無言、で綱吉は固まったままだ。
それはそうだろう。と頭の片隅で声がする。
うるさい。とあたしも対抗して心の中で叫ぶ。




















「ツナー! ー!いるよなー!」





脱力させるような気楽さを内包した声、それも大声がした。
それは酷く場違いで、そしてここでは聞くことはないだろうと思っていた声だ。





「山本!?」





綱吉は奇声を上げた。(まるで学校での綱吉だ。) まぁあたしは奇声を上げることもできずに口をぽかーんと開けた間抜けな顔のまま固まっているわけだけど。
そんな風に頭の中でぐるぐる巡らせている間に足音は近づいてくる。





「悪ぃ。邪魔しちゃ悪いとは思ったんだけど俺も宿題全然終わってないんだよ。 頼みの綱の獄寺もダイナマイトの仕入れでいねぇし。」





ごめんなー、と教室にいるときと全く同じ様子で一気に言って、あたしと綱吉の間にどかっと座った。





「……山本、何で来たんだよ。」



「さっき言ったぜ?宿題全然終わってないんだよ。 ってうわっ もうそんなとこかよ!?俺まだその半分だぜ!?」



「いや、そうじゃなくて、何でここがわかったんだよ!?知らないだろ、普通。」





あぁー、と言った山本はあいかわらずにこにこ顔。この場で笑っているのはこいつだけだ。





(うわっ連絡網どこだっけ!?) ☆彡 (山本ぉ!事情聴取だ!)