屍累々。
はあまりの光景に酷い頭痛と吐き気に見舞われる。
使命感……いや、プロ意識だけで今彼女は立つことができていると言っても過言ではない。
そして は目にする、 ほかの牢がが死体で溢れているというのに、空っぽの牢を。 そこはまぎれもなく が調査のために訪れた牢だった。









ACT.2











「もしもしディーノ?とりあえず一通り調べ終わったわ。」



『お、早かったな。まだ12時前だぜ。ディナーよりランチの方がよかったのか?』





ディーノの言葉に は軽く苛立つ。
当然だ。
あんな光景を見てしまったら、まともな神経を持つものは寝ることなど不可能だ。 おかげで睡魔は一向に現れる気配を見せず、彼女は寝ずに働く羽目になってしまった。





「冗談はよして。冗談じゃ済まされない事態になってるんだから。」



『……わかった。もう言わねぇよ。それでランチ、ディナー、どっちがいいんだ?』



「あたしはできればランチがいいけど、ディーノだって予定があるでしょ?一応あなたキャバッローネのボスなのよ。」



『一応ってお前……ったく酷いなぁ。まぁいいや。とりあえずオレの心配はすんな。 同じようで動いてるんだから情報収集ってことで仕事は抜けられる。
んじゃ、いつものトコで今すぐな。』



「わかったわ。ありがとう。」





は妙に心拍数が早く感じられた。 電話を切ると現れる孤独感があの忌々しい光景をフラッシュバックさせるせいだ。
そして、あぁ……と頭を抱えると、頭の端でしばらく悪夢は続くかもしれない、と思った。
そのくらい、その光景は彼女にとって恐ろしいものだった。






























「思ったよりも早かったな。」





オレは自分の近所だけどお前住んでるところからここまで結構あるだろ、と言いながら、 ディーノは席に着いたにメニューを手渡した。 自分はもう決め終わってしまっているのか、見る気はない、といった様子で心配そうに の方を見ているだけだ。
とてもマフィアのボスには見えないなぁ、と は相変わらず思う。





「実はディーノに電話したときにはもうこっちに向かい始めてたの。どうせここだろうと思ったし。」



「そうか。それより……大丈夫か? 、お前、顔色悪いぞ。」





その言葉に思わず は反応してしまった。 その瞬間昨日の光景はまたフラッシュバックする。 彼女は変な汗が出てきた気がした。





「……全滅、してたの。」



「えっ……。」





ディーノの表情がこわばる。 信じたくない、といった感じだ。 だが同じ様に だってできることなら信じたくなかった。 でも彼女はその眼で見てしまったのだ。





「全滅……してたの。看守も、ほかの囚人も……みんな。」



「なっ……。」





黙り込んでしまったあたしたち2人。



イラッシャイマセーメニューハオキマリデスカピッツァマルゲリータニニンマエ オノミモノハイカガデショウカジャアオレハペリエアタシハオミズデケッコウデス……



自分たちの周りで繰り広げられる会話が、今自分たちが話していることが嘘であってほしいと願うせいか、嘘っぽく聞こえる。 モノクロの音なのだ、全てが。 右から左へと音は脳へと流れ込むことなく自分の中から存在を抹消されていく。





「すいませーん、注文いいですか?」





は耐え切れなくなって沈黙を破る。 このままではまたフラッシュバックしてしまいそうで怖かったのだ。
ウエイトレスが空いたテーブルを拭いていた手を止めて2人の席へと向かってくる。





「ご注文をどうぞ。」



「カルボナーラ。ディーノは?」



「ラザニア。食後にコーヒーを。」



「あっ、あたしも食後にレモンティー下さい。」



「以上でよろしいですか。」





2人が頷いたのを確認すると、ウエイトレスはかしこまりました、とだけ言ってテーブルから離れていった。
しかし代わりに再びの沈黙が訪れた。
あまりのショックで嘘っぽく全ての会話が聞こえるだろうということは予測できてしまっているから2人揃って変な笑顔で向き合うだけだ。
嫌だなぁ、と は内心苦笑する。
そんな顔を がしていたらディーノが何か言いたそうに口を開いた。
彼はこの沈黙を打破し、何より早く本題に入るには自分から言い始めるしかないだろうと思ったからだ。 それは何より が自ら話し始めるのは困難だろうと踏んだからに他ならないわけだが。





「それで……脱獄囚、いや、大量殺人犯は誰だったかわかったのか……?」





小声で話すディーノ。周りにほかのマフィアらしき人物がいないかを確認している。
あたしはあまりに突然本題に入ったから驚いたけど、同時に安心もした。





「……主犯は六道骸で柿本千種、城島犬の2人の仲間がいる。」





獄中にいたのはそれだけのはず、と付け加えると は黙った。 タイミングよく2人分のメニューが運ばれてくる。





「とは言っても、監獄の外にも何人か仲間がいるはずだけどね。人数が少ないからって油断はできないの。」



「そうか、ありがとう。後のことはオレたちに任……」



「そうはいかないの。」





いつになく強い口調で言う彼女にディーノは驚く。 思わずえっ……、と声を上げてしまった。





「あたしが直前にあの牢に入ったのは彼らのことを調べるためだったの。」





ダカラモシカシタラカレラガダツゴクシタノハアタシノセイカモシレナイノ










血が出そうな程唇を強く噛んで、感情を押し殺しながら言う の姿はディーノの眼に焼きついた。










     BACK