仕事を終えてニューヨークからローマへと帰宅したかと思うとすぐに はベットに倒れこんだ。 時差ボケが酷い方である彼女にとって、海外出張から帰った時は当然のことだ。 そして倒れこんでから約12時間が経過。 現在の時刻は午前10時。 しかし はぐっすりと、それこそ泥のように未だ眠っていた。 ACT.1ヴヴヴ……ヴヴヴ…… イルミネーションをチカチカと点灯させながらケータイが振動する。 ん、と小さくうめき声を上げると、 は枕元で充電器にさされたケータイへとゆっくりと手を伸ばした。 「んあい、もしもし ですが……。どちら様ですか?」 電話の向こう側でハハハと男の笑い声がする。 懐かしい、久しぶりに聞く声だから寝ぼけた頭では誰だかすぐには思い出せなかった。 『チャオ。オレ、ディーノだ。 その様子だと寝起きだな、 。ケータイ取る時に誰からなのか位確認しろよ。』 「あっ……ゴメン……なさい。」 『いいって、別にそんな改まった言い方しなくてもさ。』 「(別に改まったつもりはないんだけど)う、うん。」 『それよりまだ時差ボケ、なのか……?』 仕事が終わったのって3日前のはずだって聞いてるんだけど、と自信なさそうにディーノは続ける。 電話の向こう側からは、ロマーリオさんが 『まだですか?いつもより長い電話ですね、ボス。』と笑いながら言ったのが微かに聞こえた。 は思わず笑ってしまう。 そしてキャバッローネは平和そうだなぁ、と感じてまた彼らに会いに行きたいと思った。 「少しミス、しちゃったから予定が狂ったの。 昨日の夜……10時頃かなぁ……とにかくこっちに着いたばっかりなのよ。」 そうなのか、とディーノは言うと、思案するかのように黙った。 微かにうーんとうなる声が聞こえる。 『実はな、妙なタレ込みがあったんだよ。 盗聴されている危険があるから今詳しく説明することは出来ないんだが。』 もディーノも黙る。 時計の秒針が動く音が妙に大きく感じられた。 『……そこで、だ。ボンゴレももう動こうとしている。 お前宛に9代目から調査以来が届いているはずだから、それで大筋を把握してくれ。』 「んじゃ今すぐ見るからちょっと待ってて。」 あぁ、というディーノの声を待たずに、 は郵便受けを見る。 するといつもなら長旅の後でも何も入っていない郵便受けに、見覚えのある印が入った封書が目に入った。 躊躇なく封を切ると、中にはディーノが言ったように調査の依頼が入っていた。 要約すると が最近潜入捜査を行った凶悪マフィア専用の監獄で脱獄があったという報告があった。 ボンゴレで調査してもよいのだが、が頻繁に出入りをしていることを聞いたので、任せたいとのことだ。 は無言のまま電話に戻る。 『……大体わかったか?嫌なら、断ってもいいんだぞ……?」 「受けるに決まってるじゃない。これでもあたしプロよ。」 ディーノ、リボーンさんに家庭教師についてもらうまであたしに1度も勝てなかったこと覚えてる? とが聞くと、ディーノは苦笑して、おいおい、そんなこと早く忘れろよ、と言った。 『わかった、ありがよう。それならボンゴレにはそう伝えとく。でもくれぐれも無理はするなよ。 それと、事態は深刻だ。速めに手を打たなきゃならない。 できれば……そうだな、3日でやってほしい。』 「3日……?冗談キツイんじゃない、ディーノ。 明日のディナーには間に合わせるわ、一緒にどう?」 『相変わらず仕事は早いんだな。助かるよ。じゃあ、詳細がわかり次第連絡頼むよ。』 「わかったわ。じゃあ早速だけど、あたし、行くから。」 『気をつけて……な。』 心配そうな声はその前のとってつけたような笑いを一層演技っぽくさせた。 彼は昔からそうだ。あたしを心配しすぎる。 ……自分はあたしにずっと勝てなかったというのに。 一瞬そんなことを考えて、大丈夫よ、と一言言うと はケータイを切った。 のびを1つしてからカーテンを開けると部屋中に光が満ちた。 陽射しはもう夏の終わりだというのにまだまだ眩しい。 ついでだ、と思って窓も開けると、さわやかな風が入ってきた。 部屋に充満していた淀んだ重たい空気を風はすっかり押し出してしまう。 この夏も結局ほとんどイタリアにはいられなかったなぁ……。 「地中海の夏は大好きなのに。」 そう心の中だけでなく声に出して呟いてから、いけない、時間が、と気付くまで数秒程度。 はあわただしく出かける仕度を始めた。 |