「 、いるか?」 その日の夜、スクアーロは宿舎の消灯時間を過ぎてからあたしの部屋を訪れた。 今日のことがショックでベッドに横になってからも全然眠れていなかったあたしは、スクアーロがドアを開けた瞬間に 「スクアーロでしょ?」とベッドから出ず、不機嫌さを隠さずに言った。 「ただいま。」 「いつ帰って来たの?」 「今日の夕方。風呂に入ってから に会おうと思ったら、 お前部屋にいなかったろぉ?どこ行ってたんだぁ?」 「……ロビー。」 「あっそ。」 「(嫌味に気付いてないし……。)」 あたしがあまりにも無愛想に返事を返すせいか、スクアーロは返事に困ったように視線を右へ左へウロウロさせる。 あたしたち2人の間に気まずい沈黙が訪れる。 夜の沈黙とは怖いもので、昼間とは違い、この世にある全ての自称が息を潜めるように佇んでいるから、昼間の沈黙よりもずっと静かな感じがするとあたしは思う。 ふくろうのホーという鳴き声でさえも静けさを生み出すのに一役買っているのではないかとさえ思える。 「あの、さ……。」 「……。」 「 、何か怒ってんのかぁ……?」 いつも自信たっぷりのスクアーロには似合わない、困ったような声色。 何かに怯えている様に聞こえなくもない。 スクアーロにとってもこの夜の沈黙は重たくて嫌なものなのだろうか……? 「……。」 「言わなきゃオレにはわかんねぇぞぉ……?」 あたしは何て言っていいのかわからなくて、スクアーロに背を向け、壁の方を向いてシーツをかぶった。 それがスクアーロから逃げているだけだって自分でもわかっているのに。 あたしはスクアーロが黙りこくっているのを背中で感じていた。 偶然にも1人部屋を宛がわれている自分を幸運だと思う反面、 誰かもう1人この部屋にいれば、この状況は変わっていたかもしれないと思うと途端に自分が不幸に思えてきた。 現金な奴。 自分でも、そう思う。 「オレが…… のこと、ずっと放っておいたからか……?」 「わかんない。」 改めて問われると、それも、ほんの少しかもしれないけれど、関係している気がしなくもない。 でも1番の理由は 「オレが人を傷つけるからか?」 「当然でしょう。」 言ってから後悔した。 スクアーロへの怒り以上に自分への怒りで一杯になった。 喩えるならば紙の上にインクが落ちたときみたいに、鮮やかにそして一瞬で。 あたしは人を傷つける人間を許せないと言いながら口先ばかりで止められない。 そして何より、人を傷つけるスクアーロのことをあたしはまだ 好きでいる。 何でどうして? 人を傷つける行為なんて止めるべきだ。 止められないなら、そして、彼が許せないなら別れるべきだ。 そんなことわかりきっているのに。 あたしは結論が出せずにいる。 「ごめん。今日はもう帰って。」 最後まで顔を見せずにいたあたしに呆れたのか、スクアーロはすぐに無言で部屋を出た。 パタン、という切ない音をドアが立てたのを聞くと、そのとき初めてあたしは枕が濡れていたことに気付いた。 |