アンドロメダ・15





あたしが話を止めてからしばらくするとディーノはすっきりしたか?と静かに言った。
あたしはまたも電話越しだというのに頭をこくり、と動かすことだけした。 そしてその時初めて自分が2時間以上話し続けていたことに気付き、ディーノへの申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになった。
優しく微笑みかけてくれているディーノの顔が目に浮かぶ。





「ごめんね、こんなに長い間話聞いてもらっちゃって……。」



『これ位大したことねぇよ。悩んでるやつを放っておけるわけねぇだろ。』





気にすんな、と軽く言ったディーノはとてもこの間まで”へなちょこ”と呼ばれ、劣等生のレッテルを貼られていた人だとは思えない位しっかりしていた。





『で、これからどうするんだ?』



「どうするって……。そんなこと言われても……。」



『黙ってたって解決なんかしねぇぞ?ましてうじうじしてたら救いようがねぇ。』



「でも、だって……もう別れるしかないじゃない、あたしたち。」



『……本気でそう思ってるのか?』



「え……?」



、お前は本気でもうスクアーロと別れるしかないと思ってるのか?違うだろ? だってお前今も躊躇してるじゃねぇか。だから決められないんだろう?』



「……。」



『もっと別の道があるじゃないか。』





さっきよりほんの少しだけディーノの声が大きくて荒くなった。





『お前はまだスクアーロのことが好きなんだろ?だったら仲直りすればいいじゃないか。』



「で、でもディーノ……!」



『完璧な人間なんていねぇよ。』



「え……?」



『元から完璧なんてあり得ないんだからさ、もっと話し合いするとか色々あんだろ? が嫌だなって思った所だって、あいつに頼んでやめてもらえるように努力するしかないじゃねえか。』



「……。」



『でなきゃ の言う通り、別れるしかないと思う。』





ディーノははぁーっという長い溜息をつく。





『さ、もう夜遅いしそろそろ寝ないか?』





ディーノはさっきまでのまじめな声とはうってかわって、明るいで言った。
あたしはうん。と呟くように言ってからバイバイ。と別れの挨拶の言葉を紡いだ。





「じゃあおやすみ。」





それなのにディーノはあたしにあっ、と言って待ったをかけた。
なんだか急に思い出したときに発する”あっ”という声と違って、あたしは嫌な予感がした。寒い。





「……どうしたの?」





いや、と言った後に続く苦笑が、今のあたしには妙に重たく感じられる。





『あのな、まだ誰にも言ってなかったし、言うつもりはなかったんだけど、やっぱ にだけは言っておこうと思ってさ。』



「な、何……?」



『実はオレ、キャバッローネの十代目を継いだから街に戻ることになったんだ。 今ここに帰ってきてるのは荷物をまとめたりするのに1週間だけ部下に休みもらったんだ。 友だちにもお別れ言わなきゃならないだろう。って。』





あたしはあまりに突然のことで頭がついていかなかった。



ディーノがこの学校をやめる……?





『でもさ、よく考えたら勉強もスポーツもだめなオレって、いっつもバカにされてきてて友だちらしい友だちもいなくてさ、別にすることなんてなかったんだよ。』





あたしは掛ける言葉もなくて、ただ黙って聞いていることしかできなかった。





『でも1つだけ思い残すことがあった。』





夜の闇に飲まれるように、ディーノの言葉はあたしの耳の内へと溶けていく。
行き先はあたしもわからない。
言葉の意味は表面をなぞるようにしか理解できない。





『好きな人に告白位してから帰ろうって。別に振られたって構わないから。』





言葉の行き先は





、オレ、お前のことが好きだ。 がスクアーロのこと大好きなのだって知ってる。 だから付き合ってくれだなんて言わないし、言えない。 だけどオレの想いだけでも知っていてくれ。』





オレ、早いけど明日の朝には戻ることにしたし。とディーノは呟くように言った。
しばらくの間あたしたち2人の間には沈黙が横たわった。




















沈黙を破ったのはディーノのあくびだった。
どう考えてもそれはあまりの気まずさに耐えかねたディーノが無理やり捻り出したものだったけど。





『……眠ぃな。』



「う、うん。」



『そろそろ寝ようか。』



「……う、ん。」



『おやすみ。バイバイ。』





バイバイ。
そう言って、普段他の人と電話をしたときと同じように切ったはずだったのに、全然違った。
こんなに涙は出ない。いつもは。










いつもよりずっとずっと重たいバイバイ、の言葉にあたしは押しつぶされそうになった。





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