アンドロメダ・13





「何ぼうっとしてるんだ?」





ディーノの心配そうな声で、あたしは我に返った。





「あ、ううん。何でもないよ。ちょっと考え事?」





ふーん、と言うとディーノは戸締まりを始めた。あたしも慌ててそれに加わる。





もさ、なんか夢とかある?」



「えーあたし?言っても笑わない?」



「笑わねぇよっ! だってオレの夢、笑わなかったんだから……!!」



「それはディーノの夢が立派だからだよ。 みんな一流マフィアになるとか、幹部になるだとか言うのに、ディーノは違うじゃん。 あたし、尊敬してるんだから……。」





ジャッと勢いのいい音をたてながらカーテンをしめるのはなんだか気分がよかった。
ジャッ。何かが弾ける音に聞こえなくもない。





「え、オレって普通じゃないの!?」



「普通だよ。多分。でも一般人の普通とマフィアの普通が違うんじゃない?」





戸締まりを終えて、帰ろうかー。とあたしが言うと、ディーノは無言で頷いた。






























「オレさ、思うんだけど、普通とか普通じゃないとかってそんな大事なことじゃないんじゃないかな。」





校門を出るときに、ディーノは呟くように言った。





はさ、そういうことで今は悩んでるのかもしんねーけど、いいじゃねーか。自分は自分で。」





まるで自分自身にも言い聞かせているようにも聞こえるその言葉は、深くあたしの胸を射す。
いつかあたしもディーノのように笑いながらこんなことを言えるようになるのだろうか……?
あたしは全くと言っていいほど自信がない。





はさ、どこのファミリーだっけ?」



「セアト。ちっさい所だよ。ボンゴレとは同盟結んでるけどね。」



「ふーん……。で、 はそのファミリーを抜けたいわけだ。」





あたしは父も、父の仲間もみんな大好きだから、簡単に”うん”とは言えなかった。
やっぱりあたしは優柔不断で、答えが出せない。
あたしが黙っていると、ディーノはひどく困った顔をした。





「じゃあさ、 の夢は結局何なんだ?」



「……医者、だよ。」



「何だよ、恥ずかしがることねーじゃん!! ならきっと凄腕の医者になれると思うよ。」





応援してるからな!とディーノは言うとにこりと笑った。あたしもつられて思わず笑ってしまう。





「ディーノだって頑張らなきゃだめなんだからね。」





あたしがそう言った所でちょうど宿舎のロビーについて、別れのときがくる。
ばいばい、と言って手を振ると、なぜだか淋しさが募ってきて、スクアーロの姿がちらついた。





「ディーノ。」





気付いたらあたしの口は勝手に動いていた。
ほんの少し悪いことをしてるんじゃないかって気分にならなくもない。
今誤解されたら、困る。って。





「ん?どうした?」





ディーノは歩くのをやめて振り返った。あたしはディーノの方へ小走りで行く。





「あのっ!実はあたし……その、相談、したいことがあって……だからメール……。」





あたしがそう言うと、ディーノは名刺を取り出した。
柔和な微笑みを浮かべている。





「何かあんならここに連絡入れてくれよ。待ってるから。」



「ディーノってこんなの持ち歩いてるの!?」





あたしがびっくりして言うとディーノは照れくさそうに苦笑した。





「オレ、もうキャバッローネの十代目継いだんだ。だからボスはこういうのをしっかり持てって部下が。」





部下っつってもオレより20位歳上の奴らばっかだからそんな感じはしねぇんだよ。とディーノは言うと、あたしに名刺を押し付けた。





「いらないと思ってたけど、案外使うもんなんだな。」





そう呟くとディーノはそれじゃ。と言って手を振った。あたしはディーノの後ろ姿と名刺を交互に見つめてから手を振った。





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