スカル君の知らせを聞いたあたしはコロネロの帰国予定日である今日、 大量の食材を持ってコロネロの家までやってきた。










母国情緒・02










「ん……?」





あたしは首を傾げた。
なぜかというと、コロネロから渡されていた合鍵ではドアが開かないのだ。 鍵を変えたなんていう話はコロネロからは何も聞いていない。 でもまぁ今回はバタバタしながらイタリアを発ったからなぁなんてあたしも始めは思っていた。
が、




















「……明らかにもう着いてるはずの時刻なんだけど……。」





コロネロを待ち始めること2時間が経過した。いくらなんでも遅すぎる。
アパルトマンの前に来たときには燦々と輝いていたはずの太陽も、もう傾いてしまっていて建物が並んでいるせいもあってか、 すっかりその姿はあたしの目の届く範囲にはなくて、空をオレンジ色に染めている。
えっ、これいくらなんでも遅いんじゃない!?事故にでも遭ったんじゃ……とよからぬ想像を思わずあたしはしてしまう。
駄目だ駄目だ、ポジティブシンキング!!といくら自分に言い聞かせてみても、この状況ではそれも上手くいかない。 やることも考えること位しかないから、ちょっと意識することを止めると、すぐに思考はそういう暗い方向へと進行してしまう。




















「おい、てめぇ……、オレの部屋の前で何してやがんだ!?」





厳つい男性の声にあたしは体をびくっと思わず反応させて声の方向を見ると、 そこには見知らぬ男性(しかも筋骨隆々とした逞しいラテン系の男性だ)がいた。
イラついてます!という彼のオーラにびっくりして(というかむしろぶっちゃけびびって)、 あたしは「す、すいませーん!!」とだけ叫ぶように言って、急いで車に飛び乗った。










ふーっ、と一息吐いて、混乱しっぱなしで役立たずになっているあたしの頭を少し落ち着けると、 自分でも驚くほどに緊張していたらしく、がくっと一気に力が抜けた。
あたしが全体重をかけたせいで、シートがキュッと音を立てた。





「コロネロ先輩は さんを驚かすつもりだったんですね。」





あたしはこの間スカル君があたしにかけてくれた言葉をうろ覚えで呟いてみる。
けれども声は震えていて、すっかり自分がこの言葉を信じられなくなってしまうような状況に身を置いているということに気付くと、 「気休めじゃん……。」と今1番言っちゃいけないような言葉を吐き捨てるように呟いてしまった。





『要するにコロネロは引っ越していたことを告げずに日本へと旅立ったのだ。
きっとあたしから心が離れてしまったから。
だからきっと帰ってくることもあたしには告げなかったのだ。』





言っちゃったら、コロネロのことまだこんなにも好きなのに、信じられなくなるってわかってるのに、こう思って。





先週スカル君があたしに「笑顔が見たかった」なんてことを言ったのはそういうことを考えたからなのだろうか……?
なんて考えてしまうのは傲慢な上に、勘繰り過ぎだけれど、そういう風に考えてしまう。





あたしの妄想はとめどなく広がりを見せてしまっているので、これではだめだ!と流石に自分で思った。
とりあえず……あたしは車を発進させることにした。










キーを持つあたしの手は震えていた。