目が覚めると病室だった。
あれ?オレ戦ってなかったっけ?あのダイナマイト小僧と。でも生きてるってことは勝ったってことだよな……?
そう思って首元を観ると予想通り、リングがあった。
ウシシ……やっぱオレって天才。流石王子。
でももったいなかったなぁ……。また血ぃ出して記憶飛ばしちゃったよ。 せっかくの楽しい戦いだったっつーのに、意味ないじゃん。
そこそこ傷は深いらしく、起き上がるとズキリ、と傷口は鈍く傷んだ。
いや、でも平気だぜ?だってオレ王子だもん。










「遅いお目覚めだね、ベル。」





そう言って病室にマーモンが入ってきた。
つまらなそうな顔をしているということは今日もまた戦えないのだろう。 全く運の悪い奴だ。まぁ楽しみを取っておく派ならいいかもしれないけど、この表情ならそういうわけでもなさそうだ。 とにかく今日殺り合うのはゴーラ・モスカかスクアーロっつーことだ。一体どちらだろうか……?





「王子には早く起きようが遅く起きようが関係ねーの。誰にも文句なんて言われねーし。それより今日は誰の番だよ。」



「雨戦だよ。スクアーロの番だ。」





関心なさそうにマーモンは言う。
ガキのくせに、いやに落ち着いていて薄気味悪い。アルコバレーノっつーのはみんなそうなのかと思うと世の中変な奴らばかりなんじゃねーかと思えてくる。 まっ、王子は王子ってだけで特殊なアイデンティティ持ってんだからそんなこと言っても誰も耳かさねーだろうけど。





「……それよりさぁ、ベル。寝てる間中ずっと寝言言ってたけど何か聞いていい?」



「はっ!?オレ寝言なんか言ってたのかよ!?うわ……王子かっこわる……。でもオレ夢なんて見てなかったんだけど。」



「ふーん……。でもずっと ーって呻いてたよ。誰?それ。どっかの国のお姫様?金蔓になるなら教えてよ。」



「……姫なんかじゃねーよ。」





その気はなかったのに変に冷たい物言いになってしまった。
やばっ……。オレ、まだ忘れられてねーのかよ、アイツ、のこと。





「怪しいね。じゃあどういう関係なんだい?ベル。気になるじゃないか。」





まさか女……?という言葉にオレの中の何かがプツリ、と音を立てて切れた。
血も見ていないというのに、今日のオレは一体どうしてしまったんだろうか……? このまだ熱を持ち、痛む傷のせいにしてしまいたいとさえオレは思った。





は、あいつは金蔓になんかなれねーよ。姫なんかとは程遠い奴。……オレの城の使用人。」



「ふーん。おもしろそうな話が聞けそうだね。」





珍しくマーモンは笑った。とは言ってもとても赤ん坊の笑いとは思えない笑い方だったけど。





「はぁっ?使用人の話のどこがおもしろそーなんだよ?」



「だってベルがただの使用人の名前なんて覚えてるわけないからね。何かあったんだろう?」





図星。
マーモンはオレの顔を見て一層笑った。
そんなにもわかりやすかったのだろうか……?と考えてから今更自分の頬が熱くなっていることに気付いた。





「金取ってなら話してやってもいーぜ?別に面白い話でも何でもねーけど。」





王子はやさしー、と棒読みで取ってつけたように言うと、マーモンは再度笑った。





「じゃあ聞かせてもらうとするよ。金は払わないけどね。」





話が違うじゃん、とオレが言うと王子は優しいんじゃなかったのかい?と返された。
もちろんオレは何も返さない。 代わりに行き場のなくなった空気を吐いたら溜息みたいになった。
おいおいなんかオレが折れたみたいじゃんか、と思っていたら案の定マーモンはそう思ったらしく、聞かせてくれる気になったみたいだね、なんて言った。
やべ、もう引けねーじゃん。王子かっこわる。
血がでまくった後だからか頭は働かないし、いつも以上にめんどくさいからオレは仕方なく話し始めることにした。
まあぃいや。オレ、王子だし、王子はやさしーからな。





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