すうっと穏やかに目が覚めた。 もう長い間こんな風に起きたことがなかったなあなんてことを、まだ夢から覚めきっていないのか、 ぼんやりと優しい乳白色の靄がかかったような感覚がする頭で思う。 いつもまだ眠たいのに鳴り止まない電話だとかに無理矢理起こされて目覚めるから。 僕はしぱしぱとする目をこすって窓を見ると、遮光カーテンの隙間から淡く光が入ってくる。 この様子だとそんなに長く眠っていたわけではなさそうだ。 だって僕が眠りについた時間はもうあとどの位たてば朝を迎えるんだろう?なんてことを考えてもよさそうな時間だったのだから。 そう思うと僕はベッドから起き上がることが、急にひどく億劫に感じられて、半分だけ起こした身体を再びベッドに沈める。 なんだ、結局寝返りを打ったにすぎないじゃないか。 僕に起きるようにと脅迫しているようにさえ思えてくる陽光を視界に入れたくなくて、僕は再度寝返りを打った。 もう一眠りしようと瞼を閉じたのだけど、まばたきをしただけなんじゃないかというスピードで再び開けてしまった。 僕は一瞬驚いたけれど、僕の瞼に何が棲んでいたのか思い出し、溜息をついた。 夢の残像が目覚めた僕を苦しめているのだ。 優しく微笑みかけている少女は、瞼から僕の脳にまで居住区域を増やしたのか、 目を開けているはずなのにも関わらず彼女の表情がちらつく。 もしかしたら僕は未だ夢から醒めきれていないのかもしれない。 もしも夢ならば、彼女の優しい笑みを思うと、僕は夢から醒めたくないかもしれない。 しかし、その反面僕はその微笑みの向こうにある気持ちだとかを思うと切なくて哀しくて、泣いてしまいそう。 だからこんな哀しい夢なら早く醒めてしまいと思うし、そのために足掻いてやりたくもなる。 『雲雀君。』 唐突に彼女の声が僕を呼ぶ。 僕はそれにひどく驚いて目覚める。 ――目覚める? 僕がカーテンをジャッと盛大な音をたてて開けると、もう太陽はすっかり燦々と輝いて南の空にいる。 気だるさが全身を被い、僕はへなへなとベッドに腰掛けた。 「 さん……。」 口をついて出たのは彼女の名前で、 そして僕はこんな風に呼びたくなかったはずなのに、と後悔の念がその言葉に自然と含まれてしまうことに口惜しいと思う。 「 さん、」 君は夢でさえ僕を苦しめるのですか……? |