今日はいつになくテンションが低い。 それは何か原因があるのかと問われるとそういうわけではなくて、 しいて理由を挙げるとすれば『嫌な予感がした』とか、 『虫の報せ』とさえ言ってしまえば事足りてしまうような、酷く自然であって非現実的な理由なのである。 『ぼんやりとした不安』なんて、芥川龍之介チック。 少しはリテラシーだと言えるだろうか……? ……なんてここまで格好つけて言ってみたけど実は思春期の女の勘、による不安、なわけです。 言い換えれば焦燥。信じれば手に入らないモノはない、なんて阿呆な……。 世の中現実は厳しさばかりでできているのです。 とてもとてもネガティブな発想ですが、 今のあたしは小さな、でもあたしにはひどく酷く大切な恋が泡となって消えようとしているのですから、 そう思えても仕方がないのではなくって? (同じ泡でもあたしと人魚姫とではとてもニュアンスが違うのはきっと、 人魚姫が海の泡であたしが沼地の泡とでもいうべきドロドロヌメヌメした類いの泡だからでしょう。) それでもあたしは消えられない。 沢田のケータイは最近シンプルになった。 ジャラジャラいっぱいついていたのがたった1本のストラップがついただけになってしまったのである。 ブレザーのポケットからその箱型機械がのぞく度にあたしは変にどきりとする。 あたしも同じ物をもらったのだ。京子ちゃんに。 占いだとか心理テストだとかが大好きなあたしはストラップが恋愛的な意味での『好き』な人を表すっていうのを信じていた。 いや、実際今も信じているんだろうけど、認めたくない。 でも信じているっていうのをあたしのこの傷付いた気持ちだとかネガティブな心理が証明しているんだけれども。 そんなぐちゃぐちゃな気分のあたしに沢田は追い討ちをかける。 休み時間に何の気なしにケータイをいじっていたら、沢田は「そういえばオレ さんのアドレス知らなかったなぁ。」と呟いた。 「えっ?知りたいの?」 あたしの中の、ほんの僅かにだけ残っている切望とでも言えるような感情が、思わず口を勝手に動かした。 今だってすでに後悔は始まっている。 こんなにも笑顔、貼り付けているというのに。 「教えてくれる?」 「うん、いいよ。赤外線どこ?」 「あっ、 さんと同じとこ。」 「おっけー送信んー!」 「ありがとう。もしかしたら今日いきなりオレ さんに相談するかも。」 そうぽつり、と言った沢田君にあたしは過剰とも言える位に反応した。内心で、だけど。 「ど、んなの?」 沢田は苦笑する。頬が紅潮してるのは気のせいだと誰か言って。 「秘密。」 |