早い話が特別なものなんてない。
は外見がとてもきれいだ、美人だ、可愛い、というわけでもないし、 勉強も可もなく不可もなく普通だし、スポーツだってこれといって得意なわけでも苦手なわけでもない。 実は驚くようなすごい一芸を持ってる (例えば驚くほどピアノが上手かったり、なわとびの早跳びでギネス持ってるとか、絵を描くのがめちゃくちゃ上手かったりだとか、ヨーヨーの世界ランクが1位だとか) っていうわけでもない。
本当に普通。平凡。そんな、大切な大切なオレの彼女。




















普段テニス部に所属している とはオレは一緒に帰ったりだとかそういうことは全然できない。というかしない。 (まず第1獄寺君や山本がいるっていうのに、そうやって、一緒に帰ったりだとかってなんだか恥ずかしいじゃないか。) けれども週に1回、テニス部のオフである月曜日だけは、特別に一緒に帰るってことにしている。 言うなればデート。
そして今日は、その月曜日だったりする。










とは言ったものの、果たしてこれがデートと言えるほどのものなのか、ずっとオレは甚だ疑問に思っている。 だって、本当に、話しながら一緒に帰るっていうただそれだけだから。
オレたちは満足なお金も持ち合わせていないから、寄り道だってたまにファーストフード店に行ったりするくらいだ。
本当に、笑えるくらい、普通。 (むしろ地味と言ってもいいかもしれない。) 手をつないで、笑って……それで終わり。 オプションと言えば、たまにほっぺたにキスくらい。
まぁ別にいいんだけど。だってオレはそれで充分幸せだし。










「ねぇ、綱吉。」





ブレザーの袖をつまんで小さく揺らしながら は言った。





「ん?何。」





オレが返事をすると、 は照れたように笑ってからうつむいた。小さい声で言う。





「公園、一緒に行こう。」





オレが「うん。」と小さい声で返すと はえへへー、と頬を緩ませた。かわいいやつ。










ベンチに腰掛けて別に今話さなくてもいいんじゃないかと思えるようなくだらない話をオレたちはする。
1つの話が終わると沈黙が訪れて、 は頬を染めながら困ったように笑う。 「綱吉もなんか話してよ。」そう訴えているようにも見える。 オレはそれに答えるように「あのさぁ……」と話し始める。それの繰り返し。










話が尽きたのか はさっきから黙っている。 オレもさっきから話すことを考えるのだが思い付かない。
沈黙とサーモンピンクの夕焼けがオレだちを包む。
別にオレはこういう沈黙嫌いじゃないんだけど、 の方は気まずく思ってるらしく、さっきから の視線は公園中をいったりきたり。 その後、オレの方を見る、なんていうのを繰り返している。
すると突然 は「あっ。」と嬉しそうに言うとオレの隣を離れた。歪んだ緑のフェンスの傍にしゃがみこむと何かを片手に戻ってきた。 ほんのり頬が紅潮しているのは夕陽のせいだけではなさそう。





「この花、ヒメオドリコっていうんだけど、綱吉は知ってる?」





あたし好きなんだー、と言った は、オレの方を期待のこもった眼差しで見た。





「見たことあるけどそんな名前だなんて知らなかったな。」



「名前負けしてるって思ったでしょ?」





図星。
オレは困った顔をしていただろう。なんて答えたらいいかわからなかった。





「確かに花とか小さいし、色とか綺麗なわりに地味だよねー。 でもあたし、何だか好きなんだ。どこが好き?って聞かれると困るんだけど。 しいて言うなら全部?そもそも好きなことに理由はいらないけど。」





帰ろうかーと言って は笑ってから、今日7時から塾の補習なのに間に合うかな。と続けた。





「えっ!?まずいじゃん!言ってくれたらよかったのに……。」



「いいよ別に。遅れていけばいいわけだし。」



「いや、でも……。」



「いいの!あたしが綱吉といたいと思ったんだから。」










僕だけのプリマドンナ










今気付いた。
オレにとって はヒメオドリコ。
どこが好きなんだと聞かれると困るけど、全部ひっくるめて君が好き。理由なんていらない。オレの1番大切な1番素敵な君。