「先生。」





あたしはそう言った後に、まるで訂正するみたいにして続けて、連日の強い日射しを受けてすっかり焼けてしまっている彼、山本武を呼ぶ。





「コーチ。」





あたしの声に反応して、山本は、ん?というまるで気のない声とともに、指導していた選手から目を離し、あたしの方に振り返った。
山本の向こうには太陽の光を受けて照り輝いているグラウンドが広がっている。
何人もの選手がグラウンドには散っていて、紅白戦をしている。





「どうしたー?」





汗を流す球児たちの必死の掛け声がBGMなだけに、なんだかその間延びした声は余計に気の抜けたものに聞こえるなぁとあたしは思った。
ゴロをサードが処理。やすやすとバッターはアウトになった。
「わんなうとー」とピッチャーが高らかに言うのを聞いてあたしは少し安心する。





「言われた通りに、次の対戦チームのデータ作りました。 打者別の得意なコース、苦手なコースとか、あとピッチャーでしたらシチュエーション別の球種なんかも。」





あぁそうか。と山本コーチはまたも気のなさそうな声で言った。
相変わらずカチッとしっかり腕組みしている。針1本入る隙間もなさそう。





「それってコピーはとってあるの?」



「あ、はい。控えも含め捕手全員分は。配球を組み立てるのに必要かと思いまして。」





余計なお世話でしたか?とあたしが言うとコーチはいや、と言って首を横に振った。
キィンという金属バットの爽快な音が上がった。
夏大のレギュラーを決める要素になる紅白戦だけに、ピッチャーはがくっと肩を落とした。あたしはそれを目の端で捉える。
ピッチャーはマウンドではしゃんとしろ、とあたしは心の中でクラスメートである彼を叱咤した。





「有能なマネージャーがいてくれるからオレは本当に助かるよ。」





あたしはなんて答えたらいいのかわからなくて黙ったまま。
マネージャー、なんて言葉を強調するなんて。
(なんて、彼は残酷な人なんでしょうか……?)





。」



「……何でしょうか?」



「オレの分は練習終わってから が直接部屋に届けに来てくんない?」





オレ、データ以外で が感じたことも聞きたいな。





(そんな優しく言うな。)





「ビデオ観てらっしゃらないんですか?」



「最初に当たるシード校の試合しかまだ観れてないんだよ。」





だめかなぁ?と山本は言うとグラウンドに視線を戻した。
さっき打たれたピッチャーは結局バックの助けで無得点のままこの回を終えた。
山本はおっきな声でピッチャーの名前を呼んでから手をこまねいた。





「帰りが遅くなるのがまずいわけ?」



「いいえ。聞いてみただけです。いいですよ。練習後ですね。」





悔しいけど、甘美な誘いに勝てるはずもなく、あたしは頷いた。
タオルの準備なんていうありきたりな理由をつけて山本に背を向けると、話し声が耳に入った。
顔が酷く熱く感じた。










秘密の練習










日記の小話改訂版。
え、と、わかりにくいかと思いますので解説します。(そんな話か く な よ。)(反転プリーズ)
ヒロインさんは彼氏さん(クラスメートのピッチャーさん)がいらっしゃるんですけど、実は山本と関係を持っています。
山本は遊び。ヒロインさんは結構本気。
山本に振り向いてもらえないから、心のバランスをとるために付き合ってるにすぎない……。
このままじゃだめだってわかってるけど関係をやめられない。みたいなそういう話。書けてねぇ。
またいつか書き直したいなorz