あたしが到底間に合いそうもないと自分でわかっていながら、最後の悪足掻きと言わんばかりに、今日の1時間目の数学の予習をしていると、 「おはよ。」という朝にぴったりの爽やかボイスで山本はあいさつをして、あたしの隣の獄寺の席に勝手に座った。
……いや、いいんですけどね。別にあたしが被害受けるわけでもないし。
ただ獄寺がもし仮に来たとしたら(まぁ最近の彼は朝は遅刻気味だからその可能性はかなり低いと言えるわけだけど) すごく怒るんじゃないかなぁなんて思いながらあたしは顔を上げた。





「おはよー。」



「数学の予習?」



「うん。」





ここまで言った所であたしは山本の髪がはねていることに気付いた。寝癖、かなぁ?
あたしの理性はそんなことしてる場合じゃないとわかっているのに、脳ミソが勝手に、寝坊して慌てて学校に来る山本を想像してしまった。 ちなみに、走っているときにおにぎりを片手にしているのは標準装備だ。
あたしは妙にその想像上の山本にウケてしまって、本人を目の前に思わず笑ってしまった。





「え、もしかしてオレが問題今日当たってるのに解いてないの、知ってんの!?」



「あっそうなの?知らなかった。」



「あっ知らなかったんなら言わなきゃよかったな。」





山本はそう言うと笑った。5月の風みたいに爽やかな笑顔である。陰鬱な気分を吹き飛ばしてくれる……。そんな感じ。





「山本は予習いいの?」



「オレはやらなくてもいーの。」



「何で?」



「どうせできないから。」





山本はそう言うと笑った。5月の風みたいに爽やかな笑顔である。





「オレ、 のこと好きだなー。」





呟くような小さな声で、でもはっきりと山本は言うと 「よぉっ獄寺!今日は早いな。」と爽やかな炭酸飲料みたいな笑顔を彼の親友、もとい悪友であるあたしの隣の席の獄寺隼人向けた。





「勝手に人の席に居座るな。」「ケチだな。いいだろ使ってないんだから。」「借りてる奴のセリフかそれが。」云々……。
あたしのすぐそばで会話が紡がれていく。
あたしは幸福な一瞬の時間でふわふわと止まってしまいそうになった。















動く時間は君のため





「なぁ。」



「な、に?」



「さっきの、返事もらっていい?」





日記の小話リサイクル。改訂。