練習試合でも公式試合でも何でもいいんだけど、とにかく試合があった後にスコアの整理なんかしてるときに分析の意味も込めて (まぁぶっちゃけただの息抜きだけどね)スコア眺めたりしてると、やっぱり山本武はすごい奴だ。 大抵の球は難なく当てる。もちろんヒットも多いんだけど、それ以上に注目しちゃうのは、いいタイミングで打つホームラン。 おもいっきりドラマチックなやつだ。 長嶋監督的というかなんというか……、ピンチでチャンス☆★みたいな、 『この打席、打てば逆転サヨナラ、空振りなら試合終了』なんていう場面で打ってくれる。 なんて頼れる男。 ドラマチックな展開にしてくれる男、なんていうのでも意外にいいかもしれない。 昨日と日曜日に休日返上で行った試合のスコアを見ながら今日もあたしはそう思った。 それからゆっくりとした動作でスコアをしまう。 そろそろグランドに出て、それからドリンク作らないといけない。 でないと 先輩から「働けーっ!!」とか「油を売るなっ!!」と怒られてしまう。 (そうは言っても 先輩はかわいいから怒ってもかわいいわけで、実はあたし、あんまり恐いとかは思っていなかったりする。) 「 せんぱーい。ドリ……ン……ク。」 思わず言葉が止まってしまった。 先輩はあたしの中で勝手に今大注目な山本武その人と何やら親しげに話し込んでいた。 先輩の表情が緩んでいる。山本君も恥ずかしそうに顔を赤らめている。 ん?あれ……?何であたしちょっと悲しいんだろ? 2人は仲良くしてるんだからいいことなはずなのに……。 「あっ ちゃん!ちょうどよかった。あっ?もしかしてドリンクつくってくれたの?ありがとーっ!本当に助かった!」 ころころと表情を変えながら勢いよく話す 先輩。 普段はそんな 先輩が大好きなのに、今日は知らない誰かが話しかけてきているような感覚で、しかも悲しい気分だ。 「えっ……あ、あの!あたし、まだ仕事残ってるんで片付けてきます!!」 「いいよ ちゃん。あたしあたし今日ほとんど何もしてないし……。」 「いや、あたし今日ははりきっちゃってやる気まんまんなんですよだから全然平気です! むしろやらせてくださいっ!て位の気分なんです!ってことでじゃあっ!!」 あたしは逃げるようにして部室に向かって駆け出した。 後ろの方で 先輩が「ちょっ……ま、 ちゃん!?」と言ったのが聞こえた。 「あーもーやだやだっ!!」 自分が何でこんなぐるぐると醜いモノを抱えているのかわからない。 胸がずきずき、疼くみたいに痛い。 何で? 先輩と山本君が仲良く話してたから……? 「それって嫉妬、じゃん……。」 口に出してみたら余計に悲しくなって、今までまぶたの1歩手前辺りで頑張ってたのにとうとう涙がぽろっと1粒出てきてしまった。 涙があつい。恥ずかしくって、頬があつい。 「あたし、山本君のこと、好き、なのかなぁ……。」 そう呟くように口に出すと報われない恋に胸が詰まって痛い。苦しい。窒息してしまいそうだとさえ思った。 ガチャッ。 突然の部室のドアの開く音にあたしはびくりとなってしまった。 逆光で顔はわからなかったけど、シルエットでわかる。間違いなく山本君だ。 「何だよ、 ー。こんなトコにいたのかよ。先輩が呼んでるぞ。」 「あっ、う、うん……。今行く。」 「あ、でもその前に、」 「?」 「涙、拭いてけよ。」 山本君の顔が、まともに見れない。泣いてることまでバレてては、余計に。 なんだかもう、行きたくない……。 「……今、行きたくないとか思ったろ?」 「……。」 「図星、か。」 返事してくれよー。先輩に怒られんだろー。と山本君はいつものあの、独特の抜け感で言った。 「今日さ、監督が紅白戦やるって言ってんだ。」 ぽつりぽつりと山本君は話し始めた。 「先輩には がいないから呼んで来いって言われてたんだ。だからオレ、 の方から来たとき、正直ホッとした。」 遠くで監督が叫ぶ声がしてるみたいだけど、あたしの耳は自分が思ってたよりずっと都合よくできてたらしく、山本君の声しか上手く捉えない。 「だから が走ってっちゃったとき、すげぇ焦った。」 山本君が黙ってる今、聞こえるのはぼやけた音ばかり。 「けど!今はそれでよかったと思ってる。オレ、 の気持ち聞けたし……。だから、紅白戦、観に来てくれよ。」 「え……?」 「やっぱ自分が頑張るトコ、好きなやつには見てて欲しいから。」 声が聞こえる 「えっ、じゃあもしかして 先輩と話してたのって……」 「やっぱ先輩ってすごいのな。オレらのこと全部わかってんだよ。」 「……。(明日からどうやって顔をあわせよう……?)」 「ところでオレの告白はオッケーだよな?」 「あっ……よ、よろしくお願いします。」 「(まっ、わかってたけどな。)んじゃ練習行くか。」 |