「バカヤロー!!アンタあれだけあたしに向かって好きだ!って言ったじゃない。ふざけないでよ。 アンタ、もしかしてあれはまるまる全部嘘だったって言うの!?」





なぁんて泣いたって叫んだって、アイツの表情はちょっと悲しそうなものからちっとも変わらなくって、 これからもあたしがどれだけ引っ張ろうが変わることはなさそうな気配。
あたしはもう取り返しがつかないんだなぁって思って、 最後は喚くような泣き方じゃなくって、涙一筋ポロッてこぼすように泣いて、それでバイバイって言って諦めた。
これ、3日前の話。




















「……なぁ、最近 、お前様子おかしくねー?何かあったのかー?」





あたしの部屋の窓の真ん前にある窓から武が言った。
あいつは昔から天然で空気読めない癖に、何でかはよくわかんないんだけど、人の心というか気持ちにはとんでもなく敏感な奴だ。 変化が訪れるとすぐに察知して、いいことがあると「よかったなー!」、悪いことがあると「相談しろって言ってんだろー!」と向かいの窓から声をかけてくる。 そんなことを言うのが学校じゃないっていうのが唯一の救いで、かつたまに傷付く所だ。 なぜ傷付くのかはわかるようでわかりたくない。





「別に何もないよ。」





あたしは「何だよ言いたくないんだよ」というオーラを出したというのに、武は流石天然とも言うべきか、 雰囲気を明らかに察知しているというのに、上手くあしらって一向に話を切り上げてくれない。





「何もないってのはないんじゃねーのか?」





そう言って難しい表情をあたしに向ける。
その顔には少し隈があってあたしなんかのために悩んでたんだろうか……?とあたしは思わされた。
その瞬間、武と同じ様に隈をつくってあたしに別れ話を切り出したアイツの表情が思い浮かんだ。 あの日のことがフラッシュバックしたせいで涙が滲む。





「ほら、やっぱなんかあったんじゃねーか……。」





いい加減にしてよ……。
あたしにそんな優しい言葉をかけないで。
泣きたくないのに泣いちゃうから。
けど武に優しくされることを期待してる自分もいて……。





「ホントに何もないから……!!」





苦し過ぎる言い訳をするくらいのことしか、今のあたしにはできない。
武は更に渋い顔を浮かべながらあたしを見ている。





「こういうのってすげぇ言いづらいんだけどさ、もしかして失恋でもしたんじゃねぇのか……?」



「いい加減にしてよ!!」





ずばり言い当てられたことが受け入れられなくて、あたしは叫んだ後に思いっきり自分の部屋の窓を閉めた。 それはピシャリと弾いたような乾いた音をたててあたしたち2人の間に壁を作った。 あたしは続けざまにジャッという音をさせてカーテンも閉める。
おい!という武の声が聞こえた気もするがこの際無視。
あたしはやっと息をついた。










♪♪〜♪〜♪





なんとなく嫌な予感を抱えながらも、せっかくの休めると思えた空気をものの見事に破壊した憎きケータイを取ると電話に出た。





『もしもし !?』





武の声を確認した瞬間、あたしはディスプレイくらい確認しろよー、と自分で自分をなじった。
イラつきついでに武には反応しないでいる。
かと言ってケータイを切ったりできないのはきっと、やっぱりあたしは心のどっかで武に慰めてもらいと思ってるんだ。 同情してほしいと思ってるんだ。
あたしなんて所詮そんな人間でしかなくて、醜くて、愚かで、どうしようもなくて……。





「オレ、元気ねぇ のこと放っておけねぇんだよ……。だから、その、早く元気出せっつーか……。」





電話の向こう側でごにょごにょと言っている武はひどく頼りなくて、それでいて泣きそうになる位優しい。
意地っ張りなあたしはそんな武に向かって、心ん中では「ごめん!!」を連呼してるくせに、 「うっせぇばかぁ」とか「あたしなんかほっといてー」と悪態をつくことしかできなくて、おかげで武をひどく困らせた。










言いたい放題言った後にあたしの口からするりと出てきた「ありがとう」は不器用なあたしたちを少し、近付けた。










Scamp it!
今ならこれまで武のしてくれたこと、全部感謝できる。だから、もう、きっとこんな言葉、言うこともないはず。










企画・ scusami に『Scamp it!(いい加減にしろ!)』として提出。
ろぜ子様、素敵な企画ありがとうございました。