パララ……パララララ……
マシンガンやらピストルやら銃器が奏でる音でこの空間は満ちている。
ここは、戦場。










白昼に


銃撃で奏でる


スケルツォ











マフィアの武力抗争が激化してからどれほどたっただろうか……?
敵も味方も大勢が傷付いた。中には死んだやつもいる。これが、戦い。





「スペルビ。」



「こんな時になんだぁ。」



「こんな時だからだよ。」



、屁理屈はいいから用件をさっさと言え。」



「これ、屁理屈って言わないよ。」



「今のは間違いなく屁理屈だったろぉ。」





むすぅっとして刀の柄を撫でるスペルビ。 その表情だけを見れば以前となんら変わらないのに、彼の、血のついた服や刀が彼の周囲への過剰だとも取れる配慮を納得させる。 かく言うあたしもここ暫く前線での任務に就いてからはピストルを肌身から離したことはない。 今だってしっかりと握っている。





「なんていうかさぁ戦って生活してるくせに戦いなんて終わればいいのにって考えてしまうわけよ。」



「オレはそうは思わねぇぞぉ。より強い相手と殺り合えるだろうがぁ。」



「それが剣士だとは限らないでしょう?」





あたしがそう言うとスペルビは「修行はどんな奴が相手でも関係ねぇぞぉ。」と満足そうに言った。
いや、これ、思いっきり実戦だから。
あたしは呆れてしまって一息ついてから「バカね、」と呟いた。
そして左手をかざしてみる。 一瞬渋い顔をしたスペルビもいつの間にか表情が緩んだ。 あたしも、本当は、見た瞬間から、自分でわかるほど、緩んでた。





「スペルビ。」



「何だぁ?」



「引っ越しの準備、この戦いが終わったらやろう。あたし、もう段ボールだって準備したんだ。」



「引っ越したらボスからの電話がきっと毎日鳴るぞぉ。」



「スペルビは律儀ね。電源切っちゃえばいいのに。」





あたしが笑いながら言うと、スペルビは鼻で笑った後に「後で何されるかわかんねぇぞぉ。」と言った。




















パァン!!










爆発音とほぼ同時にあたしの左足に激痛が走った。
かすっただけだと見てわかるのだが、わかった所で気休めに過ぎず、まともな思考をすることを妨害した。










敵はどこだ?
何人だ?










「危ねぇっ!!」





思考の最中、突然スペルビがあたしに向かって突っ込んできた。
バァン!!という発砲音が耳に入って初めて状況を理解し、ぐしゅっという命中した音が耳に入って初めて事の重大さに気付かされた。
混乱している間にもう1回発砲音が響く。 スペルビの「ぐっ……。」という呻き声があたしを突き動かした。 自然にピストルを手に取って、銃弾が飛んできた方向に向けて発泡する。
一瞬見えた人影は地に臥した。
が、すぐさま先刻地に臥したはずの影の後ろから幾人かが現れた。










あぁもう駄目だ。










パンパンパンッ!!










「スクアーロ隊長!!」




叫び声とともに全ての影が沈む。 声はスペルビの部下のものだった。 確かマクミランとかいう男だ。





「た、隊長は……?」





そう尋ねた直後マクミランはスペルビの姿を見てウッ、と唸った。
「ばかっ!!」とあたしは叱咤した後スクアーロの方を見る。 あたしはどうやら泣いていたらしく、下を向いた瞬間にスペルビの顔に滴が付いた。 ひゅーひゅーとスペルビの口から空気が漏れる。
早く救護班を呼ばなきゃ……。





「すみません、ボス。あたしです。フィネガンです。」





電話越しのボスの声が妙に非現実的。非現実の世界はこちらの方なのに。





「スペルビが……スクアーロが……敵に撃たれ、重体です。」





こんなときもボスは冷静で、任務を気にしている。





「……敵は……副官のマクミランが今し方始末しました。でもスクアーロが……。」



『今救護班を向かわせる。応急措置位しとけ。』





切られた電話が寂しい音をたてた。あたしはポケットにケータイを突っ込むと、あたふたしているマクミランを退けた。
妙に冷静になっていた。
が、止血すれどもすれども血は止まらない。 ひゅーひゅーという音は雨音に掻き消される位小さくなっていた。





さ、ん。」





哀れむな。そんなことする位なら手伝うかスペルビに命捧げろ。




















不意に服の裾が引っ張られたと思ったら、スペルビが引っ張っていた。 薄く目を開け、力なく微笑み、口をぱくぱくさせている。あたしは耳を近付ける。





……。」



「無理して話そうとしないで。」





あたしは止血の手を止めない。 すでにあたしの手は、直接敵とやり合ったわけじゃないのに血塗れだった。





「いや、いい。オレはもうじき死ぬ。自分でわかる。 だが、悔いていない。オレは剣士で、戦士だからだ。 戦場で死ぬことは恥だとは思わないからだ。」



「馬鹿なことはいいから黙って。血、出るから。」



「ただ悔やむことがあるとすればお前が今、血を流してることだ。」



「も、だか、ら……スペルビ!!」





あたしが怒って大声を出したのにスペルビは優しい顔で笑ってる。
すぐ終わる、と呟く。
何が終わるんだよ。終わるとか、言うな。





、オレはお前以外を愛せなくなるほどお前を愛した。 悔いはない。お前を愛したまま死ねる。幸福なことだ。ただ、」





スペルビは言葉につまり、咳をした。スペルビの顔に近付けていたあたしの右頬に、血、が付いた。





、オレの1つ気掛かりなことはお前のことだ。オレが死んでも時は流れる。立ち止まるな。」





そう言うとスペルビはもう1度咳をした。
そしてあたしの頭をぐっと引き寄せると優しく触れるだけのキスをした。
あたしの、いろんなところを知って、あたしを高揚させてきた唇じゃないみたいだ。 だって、こんなにも、冷たい、ものなんかじゃなかったはずだ。
するり、と腕が落ちて、地に落ちた。
雨音はいつの間にか激しくなっていた。