星空はネオンと厚い雲に掻き消された……。




















深夜に町を出歩くにはまだ寒いこの時期。
にもかかわらず、あたしは歩いて10分以上はかかるコンビにまで出ていた。
いや、まぁ特に用事があったってわけじゃないんだけど、 何だかよくわかんないけど眠れない日ってない……?
家にいるのも寂しいし、やることなんてないし……。
それでなんとなく……かな。




















ケータイで時間を確認すると、そろそろ1時を回る頃。
今も相変わらず眠れそうにないのだけれど、 そろそろ帰って布団に入らなければ明日が辛いのは目に見えている。
別に面白いわけでもないのに、時間を潰すため、 ここにいる口実を作るために読んでいた(むしろ眺めていた)雑誌を閉じる。
あれだけの時間居座っておきながら、何も買わないなんていうのは流石に失礼過ぎるから、 とりあえず飲み物だけでも買って帰ることにした。
無意味にペットボトル2本。
ミネラルウォーターとジンジャーエール。
なんて組み合わせだろう。自分でも笑える。
チョコでもコレに足したら店員さんはきっと困惑するだろう。
『なんつー食べ合わせだ』
って。




















会計を済ませ、寒ーい外に出る。 吐いた息が白くなるほどではないがやっぱり寒い。
車なんて1台も通らなくて静か。
寒いということを感じることだけに集中してしまえるような環境のせいか、寒さが増している気がする。










でもほかのことなんて考えたくないんだ。
ただ無心で生活したい。
本当のことを言えば生きることさえもが煩わしい。










寒いならさっさと歩けばいいものなのにあたしはダラダラと歩く。





あっ。





心の中だけで呻く。
全ての動作が一瞬止まる。
心臓さえも止まったと感じたのは、勘違い、ではない。
行く時にはわざと避けて通ったそこに、あたしの足は勝手に、 というかいつもの習慣で向かっていた。










彼のことで本当は頭の中も心の中もいっぱいいっぱいいなのに、 忘れるために何も考えていない振りを、演技をする。
嗚呼、なんて無駄な行為なんだろうか。
そんなこと、不可能なのに。
そんなこと、生傷を舐めているに過ぎないというのに。










そこは公園だ。
公園と言ってもたいしたもんじゃなくて、ベンチとブランコとすべり台がある位のトコ。
何もないと言ってしまってもいいんじゃないかと思う。
でもそこは彼との数少ない、何度も出向いた所だ。
彼はいつもあたしをバイクで色んなトコに連れまわすけど、 同じトコに行ったことは多分、ない。
学校帰り、夜中に急に会いたくなったとき、彼の仕事が失敗してしまったとき……別れるとき。





……いけない。
また彼のこと、考えてしまった。
もう、あたし、決めたはずなのに。










出会いが突然なら別れも突然だった。





『俺に を幸せにすることはできない。』





あたしは冗談だと思いたかった。
けど会う度にあたしたちの温度差を感じていたから、彼が苦悶の表情を浮かべていたから、 どんなに辛くても認めなければならなかったのだ。
あのとき、もっと抵抗していれば何か変わったかな……?
でも多分無理。
心を決めてからの別れって喧嘩別れとは違う。
どんなに傷ついてでも別れようと心に決める別れだ。










それでもなお次々彼のことを考えてしまう。
1度考えれば、思えば、彼のことからあたしは離れられない。
だって、
こんなにもまだ好きなんだもの










「スカル、ねぇ、どうして……?」



「俺は軍師だ。人を傷つけることで生きている。お前はそんなやつが女を幸せに出来ると思うのか?」



「あたしは何も望んでいないわ。貴方といられればそれで……」



「お前はそうかもしれないが、俺はそうは思わない。
 無理なんだ。
 呪われた俺が人を愛するなんて。」










いつもやっていたようにブランコに座る。
油が注されていないせいか、ギーギーと相変わらず嫌な音を立てている。 不快なそれさえも今となっては懐かしい。










彼の後姿。
相変わらず細くて頼りなげだけど気丈だった。










ブランコに座って空を見上げる。
空には今でもたくさんの星が瞬いていることだろうが、 あまりに汚された空気と厚い雲に覆われてしまっているせいで見ることができない。
たとえ今ここで輝いて見えるとしても、 その星がたった今輝いているかどうかとは別の話だなんて考えるのは感傷的過ぎるかしら。
あっ、涙まで出てきた。
見上げる角度を更に急にする。





滲む。 欠ける展望




















どれだけ泣き叫んでもあたしの元に彼はもう戻らない。
かれがあたしのほとんど全てだったから、あたしはきっと、もうあたしには戻れない。
欠ける。