冬の日の、それもうっすら雪なんか積もっていたりするときは尚更なんだけど、夕方の犬にする散歩というのはやけに憂鬱だ。
何よりもまず寒い。それに冬ってすぐに真っ暗になっちゃうから、学校から帰ってきてちょっとダラダラして、 それから「さぁハチ (ハチは我が家で飼っているゴールデンレトリバーの名前だ。 忠犬ハチ公から名前をもらったのに、ちょっとわがままなやつだ。散歩をさぼろうとすると、すごく怒るのだ。 /まぁそういう所がかわいかったりするんだけど。) の散歩でも行くかぁ。」ってときにはもう真っ暗になってしまっているのだ。
ハチが一緒だってわかっていても怖いなぁとあたしは思うし。
大体あたしが寒いし早く帰ろー、とハチにいくら訴えてもハチは雪がおもしろいからか帰りたがらないのだ。 雪くらいでよく1人で遊べるなぁと本当に思う。
……あたし、心が老けてるのかな。
まぁとにかくそんなわけで、今日もハチにあの大きな身体でアタック(それもリードをくわえているのだ。)されたときは正直、勘弁してよ。とあたしは内心思った。
今日のコンディションは天気は曇りな上、すでに6時なので外は真っ暗。 おまけに昨日降った雪が残っているという悪条件。 付け加えておくと、雪は日中の気温で溶かされてべしゃべしゃ。 白いきれいなやつじゃなくて、土だとか砂だとかのせいで茶色くなっているやつだ。
あーもう……




















「ハチ……早く帰ろうよ……。」





手が悴んできた。寒い。手袋をせずに家を出たことを後悔する。
しかも真っ暗で人も全然いなくて、寂しい。





『ワン!!』





ハチが迷惑な位大きな声で吠えた。すると「なっ、何だ!?」という聞き覚えのある声が軽やかな足音とともに聞こえた。





「すっ、すみません!……って笹川?」



「おぉっ、その声はもしかして か?」





このくそ寒い中、うっすらと汗をかきながらランニングしているのはボクシング部主将であたしのクラスメートの笹川了平だった。 (実はこっそりあたしはこいつのことが好きだったりする。)





「熱心だね。もうすぐ大会だったっけ?」



「あぁ!それも極限に負けられない大会なのだ!」



「そっかぁ……。頑張ってね。笹川なら大丈夫だよ。こんなに一生懸命練習してるんだもん。」



「そうか! に言われるとなんだかわからんが極限に力が湧いてくるぞ!」



「そう?」





なんか照れるなぁと言いながらあたしはハチに目をやった。 どろどろの雪で遊ぶのをやめて、嬉しそうな顔であたしたち2人の方をじっと見ている。





「よかったら大会の日、見に来てくれないか?」



「えっ……。」





ハチの方を見ていたあたしは笹川の言葉で振り返る。
言葉を整理し終えるとひどく心臓がばくばくいって、胸が熱くなった。





が観に来てくれると極限に勝てそうな気がするしな!あっ……でももちろん の都合がよかったらでいいんだぞ?」



「行くよ、行く行く!」





考えるより先に口が勝手に動いてた。顔が火照ってるのがわかる。あんなに寒かったはずなのに。





「そうか!じゃあまた詳しくは学校で伝えるぞ!」



「あっうん!ありがとう。じゃあトレーニングの邪魔して悪かったね。頑張って!」



「いや、こちらこそ散歩中悪かったな!じゃあ気を付けてな!」










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「ハチ、ありがと……。」



『ワン!』





帰り道の歩みはいつもより少し遅くなった。
冬の日、夕方の散歩も……たまには悪くない。