「りぃぼぉん、思ったより早かったね。」 そう言って緩みきった顔を はこっちに向けた。 こっちはお前に会えると思ってすっげぇ高揚してたというのに。 いったいこいつはどこで誰と飲んだんだ……? オレは虚しく、寂しくなる。 オレはこんなにも のことを愛しているのに、あいつに少しでも伝わっているのだろうか……? 今回初めて の方からオレを誘ったってことにあいつは気付いているのだろうか……? それがオレをどれだけ幸福な気分にさせたか想像できるだろうか……? オレはのことを愛しているのに、 実はのことなど何1つ知らないんじゃないだろうか……? そんなことばかり頭の中で巡って、挙句の果てに不安までもオレは感じる。 「お前の方からの呼び出しって珍しいな……。」 「そう?最近よく会ってるって気はしてたけどそんなこと、あたしは気にしてなかったなぁ。」 いつもとは違う舌足らずな口調では言った。相当酔っているらしい。 オレはあぁそう、とあたかもオレもそんなことはどうでもよかった、みたいに言う。 ホントはすごく寂しくて辛く感じてしまってる。 にとっては呼んだ、呼ばれたというのはどうでもいいことなのか、と知って落胆する。 オレはこいつにとってどうでもいい存在なのか……? そうだとすればオレの心は再起不能になるかもしれない。 「あのねぇ……リボーン。今日さぁ、あたし、同窓会だったの。高校の時の。」 とろんとまぶたを下げて、囁くような声で雪は言う。 言い終わるとすぐには飲んでいたカクテルのグラスを置いた。 中に入っている淡いピンク色の液体が微かに揺れる。 オレは薄暗い店内を照らしている青白い光で艶かしい色をしているをれに目を向ける。 液体は甘い香りも同時に放っていて、まるで今ののようだとオレは思った。 同時に の話に気のない相槌を打つ。 溺れてしまいたい。飲み干してしまいたい。 「それでねぇ……大体クラスの半分位が来てたの。それでねぇ、いたの。」 「誰が?」 興味なんてないにもかかわらず、興味津々な振りをするのは難しい。 特にオレみたいに普段冷めている人間には。 普段通りに振舞ってもいけないし、かといって演技をしすぎてはいけない。 性格が豹変しすぎているために不自然だからだ。 逆に興味がないのがバレてしまうだろう。 オレの興味はお前の話よりもお前自身だと本当は言ってしまいたい。 「高校時代にずっと好きだった、人よ。そこまではよかったの。 そしてね、あたし、彼と話をしたの。 そのときにね、ドキドキ、ちょっとだけしちゃったの。 あたし、彼のこと忘れたつもりでいたし、大学に入ってからも恋はしたわ。 付き合った人だっていたの。 それなのに彼に会ったってだけで、話をしたってだけで、こんな風になっちゃうなんてね。」 は自嘲気味に言うと、再びカクテルグラスを取ろうとした。 オレはその高校時代にが好きだったという男への嫉妬を吐き出す代わりに、よりも先にグラスを取って中身を飲み干した。 途端に甘い味が口内をを侵しただけでなく、オレの頭の中にまでも侵食を拡げていった。 と今キスをしたらこんな味がするのだろうかと考えると、オレの中にある欲望が芽を出した。 気持ちを抑えるのに苦労する。 いつも通りの自分を保つのがこんなに難しいことだとはオレは知らなかった。 はというとオレを見て、もぅリボーンったらやだなぁと甘い声で言ってバーテンにもう1つ同じのを、と言った。 「それでね、まだ続きがあるの。」 聞いてくれる?と聞くようにとろんとした目をはオレに向けた。 オレはまた興味深気に聞く振りをする。 いや、今はもう振りじゃない、か。 が高校時代に好きだったとかいう男のせいですっかり聞かなければ落ち着かない状況だ。 女1人にこのオレがどうなってんだ、と心の中で自身を問い質す。 それでもオレはの顔を見ればそんな気持ちは一瞬で浄化されて、すぐさま彼女の世界に溺れてしまうのだ。現金なことに。 「彼とはね、みんなとは少し離れた席で2人きりで話したの。 そのときのムードがさぁ、まるで禁断の恋をしている恋人同士の密会みたいな感じになっちゃってるのよ。」 クスクスと笑いながら、特に当たり障りない近況を話したりしているときとか、と言った。 そしてまたも彼女はバーテンから差し出されたグラスを口元へ運ぶ。 彼女のグロスが塗られてぷっくり、つやつやとしている唇にグラスが触れると、オレはなぜだか官能的な気分になる。 その唇を貪ってしまいたい、なんて感じの欲望が疼きだす。 ついでに言えば男の方を原形を留めない位ボコボコにした後に海に沈めてしまいたいなんて思ってしまう猟奇的な欲望 ……むしろ憎悪と呼べる感情がオレの中で渦巻く。 それをに悟られてなければいいけれど。 「そしてね、ここからが更にドラマみたいなんだけどね、彼、あたしのことが高校時代好きだったらしいの。 信じられなかったわ。そしてね、同時に後悔もしたの。 だってね、あたしたち高校3年間の間2人ともずっとそんなこと出さずに噫にも出さずに生活してたのよ。 知ってたら、どちらかが告白、してたら変わってたかなぁ……? ううん。 どちらかが素振りを見せただけでも変わってたかもしれないわね。」 2人とも臆病だったのよ、結局。 はそう言ってもう1度自嘲気味に笑うとまたもグラスを取った。 縁に彼女の唇を彩っていた桃色の跡を残して唇がグラスから離れると、すぐには呟いた。 今更もう遅いよね、と。 オレは悔しさと苛立ちが綯い交ぜになった。 まだそんなに飲んでいないというのに、心が痛んでいるからだろうか……?もうすっかり酔いが回ってしまっている。 「おい、。オレが黙って聞いてりゃさっきから何だよ。 お前さぁ、今の自分の周りを見ろよ。目の前のオレを見ろよ。 オレが恋人つくらなかったのはなぜだよ。 愛人なんかで気を紛らわせてたのはなぜだよ。 何でお前はそんなに鈍感なんだよ。 何で今お前の目の前にいるこのオレをお前は見てくれないんだよ。」 そこまで言うとオレはから顔を背ける。 自分のあまりにバカな行動で恥ずかしすぎての方なんて見ていられないからだ。 珍しく感情的に話してしまったと今更後悔してももう遅いのだ。 ……今日はもう全てを酔いのせいにすることにする。 オレは自身が注文した青い液体を一気に流し込んだ。 そいつはのとは違って甘いとは感じられない。 「リ、ボーン。」 「あぁっ!?何だよ。」 苛々と答えての方を再び向くと、は頬を淡いピンク色に染めていた。 先刻よりも染まっていると感じるのはオレの目がそうだと思いたいからだろうか。 「あたし、そんなこと言われたら 貴方に酔ってしまいそう なんだけど。」 責任とれるの?なんては言うがそんなことオレに聞くことが間違ってる。 初めっからその気だよ、バカ野郎。 普段の2.5倍位の長さだったかも(苦笑)長すぎてごめんなさい。 |