「つれないですね、 。」



「あたしのことをそんなに気安く なんて呼ばないで。」





せめて"さん"位はつけなさいよ、と彼女は文庫本から目を離して僕を睨みつけながら言った。





「僕と の仲じゃないですか。」





はおもむろに傍にあったテレビのリモコンを無言で取ると、僕に向けて投げつけた。僕は勢いよく飛んできたそれをうまく受け止めた。
が、その直後に投げつけられたハードカバーの本(文庫本に取り掛かる前に が読んでいたものだ。)も受け止めるには受け止めたのだが、あいにく手ではなく不本意なことに顔面で受けることになってしまったのだ。
だからと油断してはいけない。むしろ だから、と言った方が適切なのでしょうか……?
彼女には僕に対しては遠慮というものが存在しないのです、いつも。





さん、角が当たったじゃないですか。痛いですよ。」





額は特に血が出やすいんですよ、知ってますか?と僕が聞くと さんは当然!と言い、その上後にはもっと酷い言葉まで続ける。





「ちょうどよかったじゃない。すっきりと目が覚めたでしょう?あっ、言っとくけどわざとじゃないのよ。手が滑ったの。」





そう言うと悪びれる様子もなく さんは再び脳内で構築される世界へと戻っていってしまった。










僕も本は嫌いではない。
むしろ好きと言ってもいい。
ただ、こういう都合よく僕たち2人きりになったみたいなときに読書をされるのは癪以外の何物でもありません。 ……というかやきもちを妬いてしまう。不本意なことに本に対して。




















我慢ができなくなった。
ぼとぼと我慢強い方ではないということは自覚していたのだけれども、"こういうこと"に関しては我慢強い方でいたかった。 いくら僕でも"こういういこと"で犯罪者になんてなりたくないからです。だって馬鹿馬鹿しいじゃないですか。そんなことって。










僕は さんに覆いかぶさる。ばさ、という音を立てて本が彼女の手から落ちた。 さんは僕の腕の中でもがく。





「痛いですよ。」



「あたしの方が……!!っていうか何のつもり!?放して!!」



「何のつもりも何もないじゃないですか。セックスするに決まってるでしょう……?」





子どもじゃないんですからわかるでしょう?と僕が言うと さんは更に激しく暴れた。





「そういうことを言ってるんじゃないじゃない。何でそうなるのかってこと!!」



「僕は我慢強い方ではないんですよ。もう充分過ぎる位待ちました。」



「バカっ!!」





急に動きが止まる。





「だったらちゃんと言いなさいよ!」





え……?





「手順、位、踏んでよね……。」





子どもじゃないんだからわかるでしょう?





「ほら、骸。あたしに言うべきことがあるでしょう?」



「好きです、 さん?」



「そこ疑問系っておかしいでしょ。」





まぁいいや元からこんな姿勢だし、何もかも無茶苦茶なんだし、と さんは苦笑しながら言った。





「骸、じゃあキス、して?」





僕はゆっくりと深く僕の恋人に口付けた。










僕には 君には










それじゃ、と服を脱がそうとした僕の手を払うと、 さんは今日はここまでー、と言った。
な、生殺し……!?





さ……ん?」



「骸、だって順序。」



「え、だってキス……。」



「だって骸自然にあたしのこと って呼べないんだもん。さん付けは解禁でしょ、普通。」



「……。」