昨日夢の中に君が出てきたんだよね。 と唐突に貴女は言った。 現実からの脱出口 「それはまた突然ですね。ですがまぁ、それは仕方のないことでしょう。 なぜなら貴女の思考回路は僕が支配していますから。」 クフフと妖しく、満足そうに彼は笑った。 「まぁ理由は多分違うけどね。」 「口ではそう言っていても、深層心理は違うかもしれませんよ……?」 夢は本来の自分を映す鏡みたいな物なんです、と言うと彼はまた笑う。 あたしはそうなのかもしれない、と思った。いや、思ってしまった。 けれども同時にそれを知られたくないな、とも思った。 「そうか……。あたしは千種も犬も深層心理では好きなんだ……。」 なんて浮気性なんだーと棒読みで続ける。 彼はまた笑うと更にソファーに身をあずける。 やわらか過ぎないそれは、彼を飲み込まない。 あたしは彼があたしの気持ちを本当にわかってるなんて思ってはいなかったけれど、 今なら彼が本当にあたしのことなんて見透かしてしまっているんだ、って思う。 「それで、どんな夢だったんですか……?」 「えっ?」 「夢の内容ですよ。どんな夢だったかがこういう時は大切なんじゃないですか。」 ふーっ、と長い溜息をつくと骸はあたしを見つめた。(と、あたしは勝手にそう思った。) その視線からあたしは目を逸らす。 さっきので完全に意識してしまっているのかもしれない。あたしってなんて単純なんだろう。 ついでに夢の内容なんてちっとも覚えていなかったということにまで気付いてしまった。 「……覚えてない……かも。」 ボソリとあたしが言うと彼はたちまち不満気な表情。 「1番大切なトコじゃないですか。ってことは大した夢じゃなかったんですね。」 そう言って骸さんらしくもなく唇を尖らせた。似合わない。 「そういうわけじゃないんだけど……」 思わず弁解口調になるあたし。 そのまま『うん。多分そう。』ってふてぶてしくしてればいいじゃん。いつものように。さっきまでのように。 もうあたしは前のように振舞うのは無理だろう。 だってもう、あたし自覚してしまったから。 「……じゃあどういうわけなんですか?」 ジト目であたしのことを見る。 そのせいで思わず本音がポロリ、と零れそうになる。 だって君が夢に出てきたっていうたったそれだけのことで嬉しかったんだから。 って。 「 さん、 さん。」 骸に呼びかけられてやっと自らの思考の世界から現実へと戻ってくる。 「さっきからずっとぼーっとして……。 僕の話、聞いていますか……?」 聞いてるよ、と言おうとしてでた言葉は 骸が夢に出てきたってだけで嬉しかったんだから。 あーなんて恥ずかしいんだろう。 こんな 現実からの脱出口 はないのかな……? 笑顔で骸に さんやっと言ってくれましたね、なんて言われちゃったから 今の撤回します 。 |