戻ることさえもできない。 ましてや進むなんてことは無理だ。不可能と言ってもいい。 人間は本能に逆らうことなどきっとできないんだとあたしは思う。 人間の三大欲求は食欲・睡眠欲・性欲。 こと思春期真っ只中、青春街道まっしぐらなあたしたちは性欲なしでは語れない。 (語らなくていい) 学校で話される会話。 バラエティー番組やドラマ、タレントの話や贔屓のスポーツチームの話に混ざって聞こえるのは 恋人、好きな人、キスした人数、やっちゃった人数エトセトラ。 むしろこっちがメインだろう。 『混ざって』なんて生ぬるい。 (やっちゃった人たちはでもきっと無神経にも堂々とヴァージンロードを歩くんだと思うと、 なんだか世の中嘘ついた者勝ち、みたいに思えてくるなぁ……。) 嗚呼……でもこんな子と言ってるあたしも溺れてる。 今日も彼の傍、1人。 千種は夕飯の買出しで出て行ってしまった。 犬はあたしたちのすぐ傍でボーリング。 ホントによく飽きないなぁと感心する。 あたしたち2人はというとボーっと、ただ眺めるだけ。 することは山ほどあるけれど、 そういうことって勉強だったりだとかそんなことばっかりでとにかく下らな過ぎてやる気なんてとても起きない。 それならやっても見てても楽しくない犬のボーリングを眺める方が幾分マシというものだ。 「骸。」 「何ですか。」 気のない返事の彼。 相変わらずボーっと眺めている。 一体何を考えているのだろうか……? 何も考えない時間なんて彼にはなさそうだから何か考えているとは思うんだけど、 彼の表情は無表情と寸分違わぬために読み取ることなんて無理だった。 「骸って愛とか恋とかってわかる?」 「何ですか?いきなり。」 笑って彼は言う。 きっと何でも知ってる彼のことだから、彼はあたしの気持ちをわかった上で言っている。 それは直感。 (女の直感って案外当たったりするものでしょ?) 「いや、別にたいしたことじゃないけど、やっぱ周りの連中はそんなことばっか言ってるしさ。」 「 さんもまだまだ子どもですねぇ。」 「同い年だよ。 ってかどう考えても骸が大人っぽ過ぎっていうか、そういうことに慣れすぎなのっ!!」 彼は爆笑。 犬が『うるさいびょん!!』と叫ぶほどの大きな笑い声を上げた。 相変わらず笑うところを間違ってるとあたしは心の中だけど、呟く。 「僕って さんの目にはそんな風に映ってるんですか……?」 「そうじゃなかったらどう映るのよ……。 どぎまぎしてる骸なんてあたしには想像できない。」 「まぁ確かに僕は慌てたりしませんが、 それが慣れているってことと同義であると果たして言えるんでしょうか……?」 「じゃあ逆に聞くけどそれ以外の定義ってあるの?」 彼はあたしの問いに笑うことしかしなかった。 またあたしは彼にはぐらかされた。 「それってはぐらかしてんじゃん。答えになってない。」 「わからない振りしてるんですよ。」 「ふーん。演技、してるんだ。」 「貴女だってしてるでしょう……?」 「苦しさのあまりね。」 皮肉を込めてあたしは言う。 彼はそれに気付いたらしく、再びしらばっくれる。 「それはどういうことですか?」 「知ってるくせに。」 彼は微笑むばかり。 あたしは困惑するばかり。 前に進めない。 だって失うことが怖いから。 後ろにも進めない。 だってこれ以上を望んでいるんだもの。 これ以下で満足できるわけがない。 独りって淋しいなぁ これが舞台ならなんて酷い脚本なんだろう。 役者がただ1人立ち尽くすだけ。 IMG SONG アゲハ蝶 |