カーテンの細い隙間から見える狭い空は、 パレットが水彩絵の具をたっぷりのせたままの状態で洗われてしまったときに垂れ流す汚ならしい黒がかった色に染まっていた。





「僕以外を見ないで下さい。」





骸は冷たい声色でそう言うとあたしの胸を舐めるのを中断し、あたしの目の前に顔を出した。
しかしまだ彼の手が動き続けているせいで、あたしは思わず淫らな声を洩らしてしまう。
骸は嬉しそうにクフフと笑った。
何がそんなに面白いのかわからない。とあたしは思ったのだけれど、 彼の瞳が悲しさもしくは苦しみで濁っているのに気付くと、なるほど、と思った。






























薄暗い部屋の中で僕たちは乱れ合う。
いえ、正確に言うと乱れさせ合っている。とでもいうべきなのでしょうか……?
だってお互いにお互いのことをオカシクし合っているのですから。
僕に組み敷かれている女の名を、実の所僕は知らない。
別に知らないから不便だとも今のところ感じていませんが、不健康な関係だとは思います。
彼女が堪えかねて声を洩らした瞬間だとか、水音が部屋に響いたとき、その不道徳なトコロが別に神サマなんて僕は信じない人間なのにも関わらず、 高尚な何者かに謝りたいような気になってしまうのです。





背徳心、からでしょうかね?





僕に徳なんてモノが存在していたことが、もしかしたら最も驚くべきことなのかもしれないけれど……。




















僕の命を捕りにきたらしい彼女に僕はいくらかの噛み痕をつけた。し、まだ僕はつけるだろう。
彼女の皮膚が僕のせいで、桃色にぷっくりと腫れた。
首元のソレは彼女の肌を縛る鎖みたいに見えなくもない。





「こんな所に来なければよかったと思っているのではありませんか?」





僕がそう言って彼女を攻めると、彼女は快感から来る苦しみを押し殺せず、嬌声をあげた。
生理的なものなのか、それとも怒りや後悔といった諸感情からのものなのか判断つかない涙をボロボロと溢している。
僕はそんな彼女の柔らかい髪をやんわりとした手つきで撫でてしまった。
僕は自分の犯した失態に気付き、ハッとする。
けれどもそんな僕とは対照的に、彼女は僕が自分でもよくわかっていないどろりと粘着質な感情の正体を知っているらしく、 僕に向けて哀れむような視線を向けた。
目が潤んでいるせいか、余計にそれが腹立たしい。
まるで僕が救いようもない程哀れだから彼女は泣いてるんじゃないかと思い込んでしまいそうになる。










「その目が気に食わないんですよ……!」





自分でも驚く位苦しそうな声になってしまった。
でもそんなことよりも感情の矛先を向ける方が優先され、僕はまたも彼女を傷つける。
気持ちいいのか悪いのかわからない感覚と感情が身体の中で氾濫した。
青臭い白濁のにおいが頭を更におかしくさせる。










殺すつもりで君を抱く










あたしも彼も加害者で被害者だ。
愛を知らない彼を哀れんでしまうなんて罪以外の何物でもなくて。
辛くない罰なんて余計にあたしを苦しめるから、もういっそ殺してください。





タイトル→Nostalgia