そんな言葉知らないなんて言わないで。 あたし、これでもあなたには精一杯の誠意は尽くしたつもりなんだから。






























彼はいつも自由気ままで奔放。気分でいつも動いている。 あたしが捕まえたいと思っても、まるで猫のようにしなやかに、そして鮮やかに軽く、かわしたりすり抜けたりするの。
大好き。
彼のそういう所が。
あたしには絶対に出来ないような生き方だから憧れている、そう言ってもいいかもしれない。 けれど同時に疎ましいの。 もう、振り回されるのにも、あたし疲れちゃった。










彼はあたしのことちゃんと彼女としてみてくれているのか、不安に晒されているの。
ねぇ、教えて。
って言えたらどんなに楽かしら……?






























「ねぇ、雲雀。あたし、疲れちゃったみたい。」





彼はふーっと長い溜息をついて、ペンを置いた。
乱暴に置かれたわけではないけれど、乾いた音をさせて、ペンは机に横たえられた。





「何言ってるの?僕は仕事をしてるけど は何もしていないじゃないか。」





君はお茶すら入れてくれないわけだし、と嫌味のおまけつき。
墨汁が衣服に染み広がる時の、一瞬の内に黒点が繊維を伝って拡がっていくみたいにように、あたしの心を鈍い苛立ちが汚していく。 以前のあたしならそんなあたし自身に嫌気もさしたのだろうが、今のあたしはそんなことさえも思えないほどに彼に対して冷えてしまっていた。





「体のことを言ってるんじゃないわ。心よ、精神の問題なの。 あたし、あなたにはもう付き合いきれない。もう疲れたの。
雲雀ってさ、あたしのことをほんの少しでもいいから考えてた……?
あたし、それすらもわからないのよ、あなたの想ってることなんて。」





雲雀は何か言いたそうに口をパクパクと数秒の間させたが、すぐにそれは閉じられた。
彼は黙ったままだ。
張り詰めた空気があたしたち2人を包む。





「黙ってるってことはあたしの言ってること、わかってるってことでいいよね……?」





彼はまた口を開く。水から揚げられた魚のようだとあたしは思った。 酸素が思うように取り込めなくて、虚しく口を開閉させる。 そんなこと考えているあたしもこの重苦しい空気のせいでさっきから若干呼吸困難に陥っているのだけれども。





「違う。」





彼は辛うじて音声を発することに成功する。 いつもなら見られない光景だ。むしろ信じられない光景。 いつも自信たっぷりの最強の雲雀を追い詰めているのがあたしだなんて、ね。





「何が違うの……?」



「僕は なら


待ってくれる




と思ってた 。」





そんな期待しないでよ、とあたしはあしらうように冷たく言うと彼に背を向けた。
けれどもそう言ったクセに、その言葉は残酷なまでにあたしの決心を傷つけていて、グラリと心が揺れる。
ダメだ、負けちゃ。
また辛い思いをするのは誰だ!?
自問自答を繰り返ししながらもあたしは歩を止めてしまった。




















どうしたって彼のことが好きなんだ、あたし。
でもぐらぐらと揺れているそお揺れ方があまりにも中途半端で、あたしの足はどう頑張っても動いてくれない。