ポカポカとした柔らかな陽射しはおだやかな眠りの一時へいざなう……。 恋 に溺れた 白昼夢 僕等は海岸沿いを2人で歩いている。並盛から少し離れた所だ。 お世辞にも水質は良いとは言えないものの、泳ぐには支障はない。 夏休みともなれば人が集まり海水浴を楽しみに来る……。 まぁそんな感じの海だ。日本の海に面している所にならどこにでもある景色。 泳ぐならせめて沖縄位行かなきゃな、と僕が呟くと、 は振り返って 「何か言った?」 と小首をかしげながら僕に聞いた。 その瞬間、世界が、君が視界に入ったという、ただそれだけで輝いた。 海面が陽射しを受けたからだろうか……?いや、そんなはずはない。 太陽はずっと輝いていたし、海はずっとそこにあった。 「何でもないよ。」 僕は から視線をはずし、代わりに海へと向ける。 並は穏やかでザザーという音も呟く声すら掻き消さない。 「何だ。つまんないの。好きだ、位言ってくれればよかったのに。」 という の言葉は小さなものだったはずなのに、全てきれいに僕の耳に届いて、心の中にまで深く届いた。 クリーンヒットしたそれは、僕にまるで心臓を抉り出された様な感覚を与えた。 体内をナイフが這いずり回ったみたいに引っ掻き回される感覚、と言ってもいい。 とにかく、僕の心は深く、深く傷ついたらしい。 なぜこんなに他人事みたいに感じられるのだろうか……? 心はこんなにも痛いというのに、精神は自分でも驚くほど平静を保っている。 強い風がビュッと音を立てて通り過ぎる。見ていた海の波が高くなった様な気がした。 太陽が厚い雲に隠される。少し暗くなった。傷ついた心とあいまって、不安が大きくなる。 「 。」 思わず僕は彼女を呼ぶ。見とめた途端に安心する。 彼女はまたも小首をかしげる。 「どうしたの?」 って。 僕はしばし黙る。 何でもない、って言ってしまいたいのに、それは言えない。嘘になってしまう。 「あっ……いや……(不安なんだ)」 言えない。喉に引っかかって、僕を窒息させる。 こんなにも苦しいものなのならば、海に溺れてしまった方がよっぽどマシかもしれないとさえ思う。 「好きだ、って言う気にでもなった……?」 不敵……というよりも挑発するような微笑を浮かべて は僕を見た。そして続くのは甘美な誘い。 「ねぇ、いっそのこと2人で海に入ってしまおうよ。」 「何で?」 「あたし、遠くへ行くの。」 「えっ……?」 ノイズが入る。 の声が切れ切れになる。けど何を言っているのか全てわかる。だって覚えてる。 「雲雀がいないトコなんて本当は行きたくないの。でも行かなきゃならない。 だったら一緒に死んだほうがずっとずっとマシだわ。 ……ねっ、そうは思わない……?」 が僕をじっと見つめる。 以外の景色は全てモノクロと化す。そして遂には彼女さえも霞む。ぶれる。 「僕は死後の世界なんて信じてないよ。」 「そうだったわね。」 「だから僕のために生きて。」 は答えない。無言で踵を返すとズブズブと1人で海へと入っていった。 「 !(待って……!)」 は振り返った。何か口を動かしている。 「い……いんちょ……」 「そんな風に呼ばないで。」 「何をおっしゃっているんです?起きて下さい。」 「君が海から上がってきたらね。」 「委員長!!」 「だから……!!」 夢 だった。 草壁が不思議そうにこっちを見ている。 窓の外を見ると空虚な空間が広がっている。雲1つない。 まるで僕の心だ。あの日、大切なものを失った、僕。 「仕事ですよ、委員長。」 「……わかってる。」 今、彼女はこの空を見ているのだろうか……? 「バイバイ。」 彼女はそう言った後、海から上がるとこう言った。 「不器用だね、あたしたち。こんなにもお互い好きなのに。 ねぇ、雲雀。あたし海の向こうへ行くの。」 もう会うこともないのね。とってもとっても淋しいけれど、さようなら。あたしの愛しい人。 好きだと言えるようになったら、あたしを迎えに来て。 僕はただ涙を流すことしか出来なかったんだ。それが無意味とわかっていながらも。 |