準備万端。 あたしはいつだって慎重。 |
『本日の天気は晴れ。降水確率10%以下でしょう。』 たとえこんな予報が出ていたとしても、 折りたたみの傘位は出かけるときはいつだって持ち歩いている。 だって、たった10%が当たる事だってあるんだよ? 確率がいくら低いからって、当たり前のことだけど10%は0%ではない。 絶対、と天気予報士たちは言ってなんかいない。 今日がいい例だ。 「げっ、マジかよ!?なんだよこの雨。鬱陶しいなぁ。 つか天気予報外れてんじゃん! ったくオレ今日傘なんて持ってきてないっつーの……。」 廊下のあちこちで聞こえる罵声と溜息。 あたしはそんな物気にせず、颯爽と彼らの横を通り過ぎていく。 軽い優越感。右手には折り畳み傘。 「ふーん、君、傘持ってきてるんだ。」 「!?」 突然降ってきたのは雨ばかりではなかったようで、 風紀委員長、こと我らが並中の不良の頂点に君臨する雲雀恭弥、その人の声までもが降ってきた。 当然のことながらあたしは1人面食らう。 あたしの周りには彼以外誰もいない。 先程まで廊下に出ていた子たちは、彼を恐れてか、教室の中へと避難したようだ。 彼らはあたしに哀れみの視線を送る。 あぁ、あの子せっかく傘持ってたのに雲雀さんに目ぇ付けられてるよ。 傘だけで運使い果たすとか実はすっげぇ不運なんじゃね? 彼らの目はそう語っているようにしかあたしには見られない。 「あの……雲雀さん?何の御用ですか……?」 恐る恐る話しかけると彼は不機嫌オーラマックス! あぁっ無視も出来ない。 話しかけることもできないんだったらあたしはどうしたらよかったわけ!? まさかあなたの問いに答えるだけとか……? 「そんなことさえも君はわからないのかい? 傘がないから入れて欲しいと思っているに決まっているじゃないか。 大体天気予報は晴れだったのに今はこんな天気なんだから、少し考えたら普通わかるよ。 あっ、ちなみに君に拒否権はないから。」 いつものことながらなんて理不尽な奴なんだ!!と心の中で毒づく。 見たらわかることだけれど、あたしの傘は折りたたみ傘なのだ。 当然のことながら通常の傘と比べると明らかに小さいのに、 2人も入ろうと思ったら身体をピッタリくっつけなきゃいけないじゃない。 もしかしたら仮にくっつけたとしても入らない可能性もある位なのだ。 ……でもこれは喉の奥まで出かかった後、すっかりしぼんでしまった。 だって、もし口外してみたらどうなると思う? 即・死。 そしてそれは彼の言うことに従わなかったときも同上だ。 あたしは仕方なく彼に言われた通りに彼を傘に入れることにした。 よく考えてみれば彼とあたしが同じ方向に帰っているということは かなり不思議なことなんじゃないだろうか。 というよりもむしろ、 彼があたしと同じ方向に家があることを知っていることが不思議なのかもしれない。 だって、登下校で1度だって彼を見かけたか、って言われるとそうじゃないんだから。 でも、彼があたしと同じ方向に帰るんじゃなかったとすれば、 あたしは文句の1つを言われた後に強制的に連れて行かれたって全く不思議なんかじゃない。 (実際は文句の1つどころかグーが数発だ、きっと) それだけじゃなく、彼の家まで送らせられた挙句、 寂しい夜道を1人寂しく歩いて家路に着く……なんていうのも全然アリだ。 ……まぁ要するにどっちにしたってあたしは彼を家まで送らなければならない、 という天命に変わりはないのだけれども。 それにしても不思議だ。わからないことが多すぎる。 ここまで考えて彼の方を見ると、 相変わらず無言のままで視線をまっすぐに保ちながら歩き続けている。 隣にあたしがいるというのにまるで無視だ。 そっちの方が楽なんだけど、少し寂しく感じないでもない。 そして更に今まで気付かなかったけれど、彼の左肩はすっかりずぶ濡れになってしまっていた。 ……意外と気を使ってくれていたんだ……。 「……。あのさぁ、さっきから一体何見てるの? 軽く君の視線鬱陶しいんだけどさ、何とかならないわけ?」 「イエナンデモゴザイマセン。」 「……ふざけてる様なら女だからって容赦しないよ。噛み殺す。」 「……。」 チラリ、と彼の方を横目でうかがうと、声色と違って怒った様子はなかった。 相変わらず整った顔立ちをしていて、思わず見惚れてしまった。 「雲雀さん、お住まいはどちらなんですか?」 「 さんが僕のお嫁さんに来たら教えてあげる。」 「……。」 真顔で彼が言うから嘘なのか本当なのか全く見当が付かない。 ついでに言うと「引いてもいいですか……?」って聞きたい位だった。 けど聞けない。 横を通った車に大量の雨水をかけられてかわいそう ……だと思ったらその次の瞬間にはナンバープレート覚えてしまって 殴りこみに(むしろ彼はもっと酷いことをするだろう) 行きそうな雲雀恭弥があまりにも怖かったから。 これならあたしだけじゃなくってみんな言うのやめると思う。 だけどね、 本当はまんざらでもなかったんだよなーっていうのは、彼には内緒。 雨はだんだんと小降りになっていって、今ではすっかりやんでしまっている。 けれどあたし達は相変わらず小さな青い傘の中、 2人っきり |