現実逃避行 「あれっ?群れるの、嫌いなんでしょ? 何でアンタがわざわざのこのこと人の所にやって来るのよ。」 簡単に説明をすると、今の状況はこうだ。 屋上で1人っきりで授業サボって寝ているあたしなんかの所に 並盛の不良の頂点に立つ、恐怖の風紀委員長こと雲雀恭弥がやって来たのだ。 ……それも珍しく部下を連れていない。 ついにあたしの命も終わりか……。 心の中で小さく呟く。 これでも目立たないようにこれまで生きてきたつもりなんだ。 むしろ地味といってもいい。 だって授業中に消えてるんだよ? 自らの存在を抹消しちゃってるじゃない。 「群れるのと人の所に赴くのとは全く違うことだと僕は思うけど。」 特に考える様子もあたしに見せることなく、奴は何食わぬ顔でさらりと答えた。 彼のことだから、てっきり呆れてるかと思ったけれど (例えば大きなため息つくとかさ) そんなことを考えてから、彼の表情はいつもほとんど変わらないことを思い出した。 「ふーん。別にそんなことあたしにはどうだって良いことだけどね。 そんなことよりもあたしは今寝ていたいから放っておいてくんない。 知らない、っていうか言ってないと思うけど、あたしもアンタと同じだから。 群れるのが嫌い、っていう点ではね。」 あたしは再度ひんやりと冷たい、けれど日光によって少し温められつつある屋上の床にゴロンと横になった。 固くて慣れない内はあんまり好きじゃなかったけれど、最近では少し好きになってきた。 でも今日の、今の場合はそんなことが理由なんじゃなくて、 奴の顔なんて見たくないから背を向けてやるためなんだけどね。 「パンツ、見えるよ?」 ……!? 声にならない声を思わず上げてしまう。 そしてそれとほぼ同時に短いスカートを触ってみて、めくれていないかをしっかりと確認した。 ……こんなんで見えてるわけ無いじゃん。 そう思ってすぐに彼の目をキッと睨む。 が、すぐに彼が雲雀恭弥であることを思い出して思わず目を背けてしまった。 自分のバカ。臆病者。根性無し。 「ウソつき。」 変わりにボソリと呟くあたし。 何とでも言え、という言葉が返ってきたあたり、彼の耳は野生の獣並に聞こえるらしい。 「ウソつき。」 もう1度呟く。 今度は彼がどんな反応をするのか気になったからと、 もう1度彼を睨みつけるために、再度見上げてみる。 そこに居たのはいつもの自信たっぷりの奴ではなくて、心なしか頬を紅潮させている奴が居た。 ……あたしの目が悪いのか?それとも頭? もしかして……奴の頭が……もしくはどこか調子でも悪いのか? 少し心配しながらも、素直とは180度かけ離れたあたしには 心配してることをにおわせるようなことなんてとてもじゃないが言えない。 変わりに飛び出してきたのは 「どうしたの?ポーカーフェイスの雲雀さん。 顔真っ赤になんてさせちゃってさ。らしくないじゃん。」 なんて言葉。しかもクスクス笑いのおまけつき。 自分のバカ。こんなこと言いたいんじゃないのに……。 あれっ?何であたしこんなこと考えてるんだろう? きっとバカになったんだ。もしくは病気かもしれない。 「あのさ、いい加減黙らないとココでヤるよ?」 トンファーなんて物騒なものを出している彼は本気。 さぁどっちの意味だろう……? 回らない頭で考えてみたけれど、めんどくさくなってしまった。 感覚ニュートラル。 きっと彼はあたしと同じで素直でないだけなのかもしれない。 肌で感じられた気がした。 だからあたしは横に転がった体勢から、大の字になる。 まばらに綿雲が泳ぐ青空の手前には黒髪の学ランの少年。 相変わらず頬は紅潮気味。 あたしは思わずさっきのクスクス笑いじゃない笑いをこぼしながら再度呟いた。 ウソつき そんな度胸ないくせに、とまでは流石に言えなかったけれど。 |