が学校を休んだ。
いつもバカみたいに元気で (40℃以上の高熱が出たことがないのと、インフルエンザにかかったことがないのが の自慢だ。……怪我はしょっちゅうするくせに。) バカみたいにはしゃいで騒いでいるというのに、 (例えば階段を手摺で滑って降りるのに失敗して転んでみたり、他人のお弁当のおかずを勝手に取って怒られたり、 体育のバスケでシュートをしたつもりがバルコニーにまでとばしてしまったりする) あの子が風邪なんかで。
それもメールの1つもよこせないほどにつらいらしい。
そうでなければ僕には必ず何か言ってくるはずだ。 例えばそうだなぁ……。アイスクリームが食べたい……とか? (そんなことしか思い浮かばない僕ってどうなんだろう……? 僕の中の って冷静に判断すると奇妙、だ。動物奇想天外だ。 いや、それより僕にそんな印象を抱かせる もどうかと思う、っていうか問題があると思うけど……。)
いや、そんなことはどうでもいいんだ。話を元に戻そう。



は風邪を引いてしまったらしい。

その風邪の酷さは僕に連絡が取れないほどらしい。



僕はその事実に酷く苛立ちを覚えているのか何なのか、とにかく今日一日中ずっと落ち着かない気分でいる。
はいないのに、僕の脳内では の顔、声、行動がずっと流れていて、 実際に隣にいるときよりもずっと実感を持って僕に という存在を感じさせる。 彼女の細いのにやわらかい腕を掴んだ感覚なんて、握った瞬間には他人の感覚みたいなものなのに、今はこんなにも自分の手にあって……。





要は麻酔みたいなものなのかもしれない





呟いてみる。
辛さを紛らわすために夢を見させる、麻酔。
僕にとって は不可欠なんだろう、きっと。




















ピーンポーン……





はぁーい、とチャイムの後に数秒ほど遅れて の声がする。 いつもよりずっとずっと気だるそうな声。ハリがない、声。





「やぁ。」



「きょ、恭弥君!?」





何しに来たの!?と言う を無視して勝手に上がりこむと、 はわわわってよくわかんないことを言いながら僕の手を掴んだ。 さっきの空想よりもずっとリアルなはずが、なぜが掴まれてるのは他人の手のような気がしてしまう。 僕の体にくっついている、他人の、手。 その手が によって掴まれ、僕に の熱を伝えるのだが、その掴んだ の手は熱くて、 の熱が酷いことはその時点で明らかだった。





「熱は?」



「もう下がったよ。心配しなくても大丈夫。明日には学校行けるから。」



「(嘘つき)ほら、病人は寝てなよ。」



「えーだから病人じゃないって言ってるのに。っていうかさっきからドラマの再放送見てたのにひどいよ恭弥君。」



「何? は僕と2人きりじゃ不満なわけ?」



「……一緒にみるのはダメなの……?」





熱で潤んだ瞳で懇願されたら流石の僕もノーとは言えない。 僕は仕方なく首を縦に振った。




















『だって……あんたのことが好きなんだもん!!もう止まら





がばぁっ





『もう……それ以上先はわかってる。俺も……同じだよ。……お前のことが……好き、だから……。』





♪♪〜♪〜♪♪










連ドラの告白シーンを見ながらわぁっと言って は僕の手をぎゅっと握った。 そんな彼女が愛おしくて、自分の傍にいてくれるのがホントにホントに嬉しくて、 がいるというだけでこんなにも僕は幸せになれるのかと思った。 だから、僕はもうこの弱々しい小さな手をもう離さないぞ、と強く誓ってぎゅっと の手を握り返した。
はこっちを見返した一瞬は驚いた表情だったけれど、すぐにそれは微笑みに変わった。





「恭弥君。」



「何?」



「今日心配かけてごめんね。」



「本当そうだよ。絶対許さないから。」



「もーだからごめんって言ってるじゃん!!」





ばかっ!と言って僕の左肩を叩いた の右手。 おかげで僕の左手は淋しくなっちゃったから、僕は を抱き寄せた。










「ごめん、嘘ついた。許してるよ。そんなの。」



「よかったぁー。」





えへへーと言うと は僕にもたれる。左肩に心地よい重みがある。





、好きだ。」



「うん。あたしも恭弥のこと、大好き。」





なんだか照れるねー、と言った の左手を僕は握る。
ドラマのエンディングが流れているけれど、上手く像が結べなかった。
言ってしまえば僕には しか見えていなかったのだ。










依存症










僕は今日まで驕っていた。 は僕がいなきゃだめなんだ、って。
でもそれは間違っていた。
僕の方なんだ。
僕は がいなきゃもうだめなんだ。





だからもう2度と離さないよ、君のこと。