お風呂に入った後、ボーッと特に見たい番組があるわけでもないけど適当なテレビを眺めながら、せっかく気分よくまったりしていたというのに、 突然チャイムが鳴らされたせいであたしは酷く気分を害された。



何なんだ、こんな夜遅くに。非常識にもほどがあるってば。



最近は物騒だから、用心に越したことはないわ。 なんてまるで上京したてのかわいらしい乙女チック女子大生のようなことを思って、1人納得しながら覗き窓で玄関を見ると、そこには隼人が立っていた。
あたしは安心した反面、ちょっぴり苛立つ。



おんどれは何を考えとんのじゃこの夜遅くにぃ!!



思わず心の中ですっごく汚い言葉で罵詈雑言を吐く。
(……さっきまでの乙女チックなあたしは一体どこへ行ってしまったんだろう?)
それでもあたしは、寒さにうち震えている彼の姿を見てしまうと、寝たふりだとか居留守だとかを使う気にはちっともなれなくて、ドアを開けた。





「何?」





ただし、不機嫌&無愛想MAXという最恐のオマケ(しかもコンボ)付きだけど。
開かれたドアから光が漏れて隼人の顔に光の筋が入り、顔がパッと輝いたのに、あたしのいつもより幾分か低い声を聞いた瞬間に、隼人の顔は曇った。





「家のシャワー壊れた。貸してくれ。つかついでに泊めろ。」



「それが人にものを頼む態度か。」





あたしが迫真の演技で追い出そうとするふりをすると、彼は捨て犬みたいな目であたしを見てきた。
ついでに態度はまるで怒られた犬のようにシューンとしている。 まるで大型犬・ゴールデンレトリーバー。
(すれた振りしてても育ちのよさが滲む彼に、あたしはどこか優雅な印象を持っているらしいのだ。)
……徹底的に犬だなぁ。
でもどうもあたしはこれが見たかったのかもしれないと思ってしまう。





「嘘、嘘。いいよ、別に。着替えはこないだ置いて帰ったのが残ってるけど持ってきた?」





さんお願いします。』と敬語で隼人が言い直すのを待たずに、あたしは本当に彼に見せたかった笑顔と明るい声でそう言った。
驚いた表情で「あぁ。」と短い返事をすると、隼人は持っていた小さいボストンバックをあたしに見せて「ほら。」とまたも短く言った。
……冷たいなあ。もう少し何かあるでしょう?





「外、冷えたでしょ。何か温かいもの飲む?」





あたしがこの間買ったばかりのダージリンと、 にもらったコーヒー(実家から大量に送られてきたらしい)を思い浮かべながら言ったのに、 隼人は「いや、いい。」と間髪入れずに言った。





「あっそ。」





あたしが内心傷ついていながらそっけなく言うと、勝手知ったる他人の家、隼人はさっさと風呂場へ行ってしまった。



なんだよー、もうちょっとなんかあってもいいじゃないか。



あたしはテレビに視線を戻すと、映っている女芸人に少し噴いた。
そのネタは深夜でも際どいだろー。
隼人に見せたら照れて怒るかな?それとも欲情するかな?とあたしはわくわくしながら見た。










深夜のお宅訪問





日記の小話改訂版。