夏真っ盛り、どんなに手が汗ばんでいようが特に気にも留めずにあたしは隼人に向かって「手、つないで。」って言えるだろう。
いや、この表現はおかしい。言えるだろう、ではなく言える、だ。あたしは自身を持って言えるからだ。
あたしはどんなに暑い夏で、あたしの手がどんなに汗ばんでいようが特に気にせずに隼人に向かって「手、つないで。」って言える。 よし、これでいい。





なぜあたしがこんな風なことを自信たっぷりに言えてしまうのかというと、 あたしは隼人のことが大好きで大好きでたまらなくて、それとおんなじように、 隼人もあたしのことが大好きで大好きでたまらないということをあたしはそれはそれはよく理解しているからだ。
かっこうつけたがりの、汗だとかそういう身形に人一倍気を使うはずである隼人なのに、 あたしの「手、つないで。」なんていう、 そういうときの彼にとってはとてもデリカシーがないとも言えるであろう行為について文句を言わない理由をあたしは知っているからだ。
彼は『高々それくらいのことでつなぎとめていられるのなら安い。』と彼が思っていることを知っているからだ。





だからあたしはもしあたしが「手、つないで。」って言ったあとに 「人前だぞ!?」だとか「おまっ、 、恥ずかしいだろ!?」だとか何だとか言いながらでも、タバコ吸いながらでも、 男のクセしてやけにきれいで整ったその手を出してくれるという場面を用意に想像することができるのである。






























「ねぇ、隼人。」



「何だよ。」





そう照れ隠しのために無愛想に言うと、隼人はあたしの差し出された左手をちらりと見て、すぐに彼の右手で取り上げた。
木陰ばかりの涼しい路地裏は人がいなかったからだろうか……?
彼は今日に限って何も言わなくてもあたしの気持ちを察してくれるようになったらしい。どきり。





「……今日のテストどうだった?」





ぶらり、とあたしは手を揺らした。
2人とも手は汗ばんでいてぬるりと滑りそうなものだけど、あたしたち2人のお互いが離れたくないなぁと思っているからか、全然離れそうにない。 つながれた腕がしなるばかりだ。





「んー……ボチボチ?」



「あたしが聞いてるのに。」



「まぁ、いつも通りってことだ。」



「100点ってこと?」



「……。」



「別に嫌味で言ってるんじゃないんだから。」





ばかねー、とあたしが冗談で言うと、隼人は気を悪くしたらしく、ムスッと眉間にしわを寄せた。
ばかだな、かわいいやつめ。





「暑いなぁ!!」



「夏だからな。」





『じゃあ手を離せば?』とでも言ってのけてしまえそうな彼なのに、そんなことは絶対に言わない。 むしろより強く握られた気さえあたしはした。





「ねぇねぇ、隼人。」





あたしはセミの声を無視し、彼の感触を忘れないために左手に神経を集中させることをやめて、 空いている右手でたまたま偶然通りがかった青果店を指差した。





「あそこの店の前で盥ん中で冷やされてるスイカ、あれ沢田ん家に持って行ったら喜んでくれそうじゃない?」



「十代目の家……?」



「そ。山本とか京子とか呼んでさ、みんなで食べるの。」





悪くねーなー。と隼人は呟いて笑った。










自信の理由