チャイムが鳴って、授業が終わりを告げる。 一斉に生徒は教室外に出る。 家に帰る奴もいれば、部活をするのに体育館やグラウンド、美術室なんかに向かう奴もいる。
いつものオレなら、野球バカを置いて十代目と2人で帰るんだが、十代目は生憎補習。 きっとあの野球バカに付き合って、だ。十代目はお優しい方だからな。 しかもオレが「手伝いますよ、十代目!」と言った所、数学担当のクソババアがオレに向かって出て行くように言ったからそれも適わなかった。
……本当に申し訳ない、十代目。
仕方ないことだとわかっていながらも、最近じゃずっと十代目か山本かのどちらかと行動していたから、 昔はどうってことなかった1人での行動もなんだか変な感じ、がする。




















学校から出ようとしたとき、不意にピアノの音が耳に入った。 ここは音楽室の近くだから別に不思議なわけでもない。 ただ、この曲が知っている曲で、しかもオレがまだピアノを弾いていた頃に好きだった曲で、しかもこの弾いているやつが抜群に上手かった。 演奏者と曲が合っているんだろう。 やわらかくて優美、繊細な音が続く。続く。もうすぐフィナーレ。
オレは近くで聴きたいと切に思った。
『……どうせ1人でやることもねぇしなっ!』
なんてくだらない理由を自分の中でつけて。
多分、本当は手だってうずいていたのだ。
弾きたくて弾きたくて。
だって本当はピアノが嫌いだったわけじゃなくて、ピアノをやらされることが嫌いだったんだから……。




















今日のオレはとことんツいてないらしく、まだ終わりきってもないのに、突然演奏がやんだ。
それも、音楽室に着いたと思ったら、だ。





「誰……?」





凛とした高めの声がよく通る。
オレはそれを無視した。





「誰……?」





もう1度、その声が耳に入る。
訝るように、先程よりも少し低めの、声。
オレが黙って立ち去ろうと思ったそのとき、ドアが開いた。
見覚えがあるようなないような、女が中から顔を出した。頬が少し赤い。 オレの顔を認めると。安心したのか一息ついた。





「なんだー……、先生じゃないじゃん。」



「悪かったな、オレなんかで。」



「いや、そういう意味じゃなくて、さ。あたし、ここを使う許可もらってないんだもん。 今日吹奏楽部がたまたまお休みだから、勝手に鍵を拝借して、ピアノ借りてたの。」



「あっそ。」





オレはなんだか変な女に捕まったなぁー、と思って帰ろうとすると、女は「待って!」と言ってオレを引き止めた。
今日のオレはとことんツいてないらしい。





「あなた、獄寺君、だよね。」



「……そうだったらなんだよ。」



「いや、別に何にもないんだけど、獄寺君ってこんな所に意味もなく来るタイプじゃなさそうだって聞いてたから、 ひょっとしてあたしが弾いてたの聞いててくれたのかなー、って。」





照れ笑いをすると、「やっぱりそんなのじゃないよね、うん。ごめん。」と自分で勝手に謝って女はドアを閉めようとした。
何なんだ何なんだ何なんだ。
どうしたオレ!?
どうして今のオレ、そんな





「待てよ。」





しまった、なんて思いながらオレは足でドアを止めた。
女は驚いたのか、「す、すいません!」と言って慌ててドアを開けた。





「……別にこんなの挟まった位痛くないっつーの。」



「いや、で、も。」



「それよりお前、続き、弾けよ。オレが聴いててやるから。」





口から出てくる言葉にオレは自分でも驚く。
そんなオレを女はぽかんと見て、それから照れたように笑って一言「ありがとう。」と言った。





「あのさ、あたし隣のクラスの っていうの。」



「……聞いてねーけど覚えといてやる。」





くすくす笑うと は再びピアノの前に座る。 流れるように鍵盤の上を指が滑る。 あまりにもきれいで、オレは眺めていることしかできなくて





「どうだった?」





ふぅ、と一息ついた後、ほんのり頬を染めた は聞く。





「ん?まぁまぁ?」





苦笑して「まぁまぁかー。」と言うと、 は立ち上がり、オレの隣に座ると、ピアノを指差した。





「どうしたんだよ。」



「獄寺君にも1曲弾いてもらおうと思って。」



「あ?」



「だってなんだかあたしだけ弾いてるのってずるいし、それにまぁまぁ、だなんて言う位なんだから獄寺君も上手に弾けるんでしょう?」





くすくすといたずらっぽく は笑った。





「んー、じゃいいけど その代わり高くつくぜ?





きょとんとした表情でオレを見る 見ると、オレは久しぶりにピアノに触れた。







花音