「俺、テメェのこと勘違いしてたみてぇだ。」





フェンスに寄り掛かりながら彼はあたしにそう言った。
その前にはタバコの煙をフゥーッと長めに吐いていたから風に乗ってヤニの匂いがする。
好きになれない匂いだなぁ……と心の中で呟いた。





「何をどんな風に勘違いしていたかなんてあたしにはわかんないんだけど?
 だってあたしいつもと何も変わってるつもりないよ?」





彼に勘違いをされるようなことをした覚えは全くもって、ない。
むしろクラスが同じだっていうこと以外に共通点とか接点とかがないから 勘違いされるようなことをしたとかしなかったとかは問題にならないような気もするけれど。





「あー、何て言うかなぁ……?
 上手く説明できねぇんだけど、少なくともこんなトコでサボったりなんてゼッテェーしねぇ奴だと思ってた。」



「それってさ、あたしがつまんない女だって言いたいの?」





あたしがこう言うと、彼は違ぇよ、と言いながら短くなってしまったタバコの火を消した。
靴を上げた後も名残惜しいかのように、白い煙が上に向かって続いていた。 それはまるでくもの糸みたいで、あたしを、あたしたちを何かに導いているようにも見える。 今のあたしには何故だか知らないけれど、甘美なものにも見える。キレイなものに見える。
だからあたしは暫くソレをじっと目で追っていた。




















「獄寺君はさぁー、いつ位からタバコなんて吸ってるの?」



「あぁー……忘れた。」





あたしに言うことがイヤなのか、それともただ単に面倒なだけなのか……。
どちらが当たっているかはあたしにはわからない。
けれど、頭のいい君が覚えていないわけがない。
そうでしょう?
だって君不器用だもん。嘘ついてることだけはいつも顔に出る。
(……いくらあたしでもその位はわかるんだよ?)




















「体に悪いよ。」



「別にいいよ。」





短い会話。
むしろコレを会話と呼んでいいのかすら怪しい所だ。
それなのに、この味気ない言葉のやり取りの中にあたしが喜びを含んでしまっているのは
なぜ?どうして?





「禁煙した方がいいよ。」



「口が寂しい。」



「何か口に入れるとかすればいいジャン。飴でもガムでも。」





そうか……。










そう言ったであろうが、彼の声はあたしには聞こえなかった。届かなかった。
それでもわかったのは形作った唇で……。
けれどもその唇でさえも、いつの間にか目の前から消えていて……。






























覚えているのはタバコのにおいと味。





あとは 屋上 からの晴れ渡った空。