「先生。生理痛が酷くて……。 お願い……。少しの間でいいんです……。休ませて下さい……。」 あたしは自分の演技力を総動員して、目を潤ませたりなんかしながら新任の保健医に懇願する。 彼はバカ……じゃなくて優しいから、こう言えば疑いなんてしない。 簡単に信じて休ませてくれて、追い返したりなんてましてやしない。 実際はもう1週間前に生理なんて終わってるから痛いはずが無い。 えっ?じゃぁさっきのは何かって? そんなの決まってる。もちろん ウソ 。 だって次はどうせ大嫌いな数学。ダルいんだもん。 だから、あたしは サボタージュ しにここまで来た。 前の保健医だったらこんなことは絶対にあり得なかったんだけど、 使えるものは使う!! この精神であたしは人が頑張っている時に頑張らない、 っていうなんとも堕落的で甘美な世界に身を落とす。 ソファの上で独り体育座り。 だってしょうがないじゃない。ベットが全部埋まってるんだもん。 いくら理不尽&横暴なあたしだって、仮病のクセに 『ベッドをよこせ!!』 なんていうことまでは言えない。 使えないものはしょうがない。 そんなことを退屈しながら (授業の方がマシだと思えるんじゃないかって? 冗談!授業は退屈どころか苦痛だってば。) 考えていると、先生と入れ替わりで誰かが入ってきた。 姿を確認するとなんと我が 愛し の いつもこっちに来てー!とか顔だけでも見せてー!とか考えてたけど 「おっ、 じゃん。どうしたんだよ。」 「えっ、あっ……ちょっとなんだけどおなか、痛いんだよね。」 「げっ!?マジか!?大丈夫かよ!? ……って大丈夫じゃないからこんなトコ来てんのか。 あっ、ちなみに俺は全然大丈夫だから気にすんな。サボってるだけだし。 っていうかお前なぁ、顔赤いぜ。 腹痛いだけじゃなくって熱でもあるんじゃね?」 なんて恥ずかしいこと言いながら、あたしの額に手を重ねる彼。 獄寺君の手はとっても大きくて、 指が細くて、(あたしより細かったらどうしよう) そして何よりとってもヒンヤリとしていて 冷たい 。 熱無いなー、とか彼はブツブツ言いながら、自らの額と比べている。 あるわけないじゃん。仮病なんだから。 と思ったんだけど、その言葉は頭の中でストップ!! だってそんなことホントに言っちゃったら イメージダウンも甚だしいじゃない。 ねっ?あなたもそう思うでしょう? 「痛くねぇか?」 と言いながら、獄寺君は今度はあたしの背中をさすってくれている。 (何て彼は優しいんだろう!それに比べたあたしは……) 熱が上がったかもしれない。だって彼がすぐ傍に……!! あー、彼の親切心があたしの豆粒程度、ほんの少し残っていた良心を チクリとどころかブスリと突き刺し、切り刻む。 彼に罪はないけれど、思わず恨みたくなる。今のも理由の1つだけど、それ以上の理由が1つ。 今までだってこれ以上恋焦がれることはないと思っていたのに、 今ではそんな限界値なんてとうに超えてしまっている。 針が振り切れ、暴走するあたしの心。誰か止めて!! ねっ?あなたもそうは思わない……か……。 本当の恋、したことないんじゃないかしら? 彼は依然としてあたしの隣に座ってくれている。 かすかに煙草のにおい。 いつもはそんなに好きなにおいじゃないんだけど、 彼からだと高貴なものに感じてしまうあたしは病気だ。 先生、早く治して。 できればお前じゃ無理だと言って。 授業終了のチャイムがあと少しで鳴る。 彼も時計を確認したからもう少しで行ってしまうかもしれない。 神様!あと少しだけ! だってあたし、 彼のこと好きなんです。 永遠なんて贅沢、もう言いません。 |