「うわっ!?」という男の人の、悲鳴にも似た驚きの声の直後、バサバサゴシャゴシャ……とにかく口で表現するのは難しいのだが、 とにかく商品が棚から落ちたときの、あのイヤーな音が聞こえた。 あーまためんどくさい仕事が1つ増えた。 そう思って溜息1つつくと、あたしはとりあえず音のした方へと向かった。 「お客様、大丈夫ですか……?」 どんなどんくさい奴かと思って視線を向けると、大量のペット用のエサに囲まれてあたふたしているのは誰もが認める美形の男。 何人かは定かじゃないんだけど金髪碧眼の外国人さん。 うっわーまじありえないんですけど。かっこよすぎますってば。 なんだか周りに散乱した大量の商品(逆にすがすがしい位にこの棚にあったもの全て、彼は床に落としてくれた。というかばら撒いてくれた。) なんか眼に入らない。アウト・オブ・眼中。 「あぁ、大丈夫だ。けど……それよりもこの商品悪かったな。 こうなったのも全てはオレの責任だ。オレが全て買い取るよ。」 あのー……はい?何をおっしゃってるんですか……?どっかのボンボンですか、あなた? 彼が思いの外流暢な日本語を話したことや、彼の浮世離れした発言に混乱しながらも、あたしは商品を拾い上げ始めた。ナイス、自分。 「ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。落ちただけなんですからまた並べればいいだけのことです。後はこちらにお任せください。」 顔に営業スマイルを貼り付けてあたしは言う。 彼は安堵したように表情を崩した。 「そういうことなら、オレも手伝います。」 そもそも悪いのはオレなんだし……というと彼は照れ笑いしながら両手いっぱいに箱を抱えて棚のなかに商品を戻し始めた。 あたしもあわてて床に散らばる箱を抱えて棚へと押し込み始める。 もくもくもくもく…… あたしたちは2人とも何もしゃべらず、単純作業を黙々と続ける。 うわー、せっかくこんなかっこいい人がいるのにもったいない……!! せめて眼の保養に観察(?/なんか言い方が悪いなぁ……。)くらいすればいいのに、と自分でも思う。 けど、なんだかそういうのもおかしい気がして、ちょっと横を見る、っていうただそれだけのことが、できない。 「(ほんっとにあたしってチキン……。)」 はぁーっとまた溜息をついてしまってからはっ!と気付くと、彼はあたしの方を不安そうな顔で見ていた。やばっ……。 「あの……オレのせいで……ほんと、すいません。」 「あっ、いえ、気にしないで下さい。これが仕事ですから。それに、あの、このことで溜息ついたんじゃないですし……。」 あなたがかっこよすぎるからなんて口が裂けても言えません。 「そっか……。でも、悪いことしたな。」 そう呟くように彼が言ったのをあたしは申し訳ない気分で、聞こえない振りをした。 直後。 「!?」 箱の数も、棚の空きスペース大分少なくなってきていたせいか、彼と指先が触れた。 あたしはびっくりして思わずびくっとしてしまった。顔が、熱いのを感じる。 すかさず隣の彼を見ると彼は苦笑いを浮かべてこちらを見ながら「すいません。」と言った。 謝るべきはあたしの方なのに。 「あ、あの……もう数、少なくなってきましたし、後はあたしがやりますから。」 気まずくってあたしがそう切り出すと、困ったように彼はうなずいて、もう1度店内を物色……もといまわり始めた。 「すいません、 さん。探しているものが見つからないんですけど……。」 「はい。」 そう言われて振り向くと、さっきの彼だった。 っていうか名前……。 あたしは自分の心臓が飛び出てくるんじゃないか、ってくらい脈打っているのを感じる。 「あの、お探しのものは、っていうか名前……。」 「あぁ。名前はほら、首からぶら下げてるカードだよ。それに……まぁいいじゃないですか。」 「(名前、覚えてくれたんだ……。)」 「そ、それより『猛獣のエサ』ってこちらには置いてないんですか?」 「(そんなのあんの!?)あの……多分ないと思いますけど……。ところでペットは何を飼育なさってるんですか?」 「カメなんですけど。」 「(それって猛獣って言わないんじゃ……?)それでしたら普通に『カメのエサ』でいいんじゃないでしょうか?」 「うーん、ないんだったらそうするよ。あの、じゃあ さん、それが置いてある場所まで案内頼みます。」 無邪気な笑みを浮かべながら彼は言った。 「あとできたら のファーストネームと電話番号も教えてもらえると嬉しいな。」 「オレはディーノ。今日はありがとう。」 そう言って彼は電話番号の書いた紙を渡してくれた。 (今、恋が始まる気がした。) |