はというと、今日もすでにどこかへ出かけてしまったらしい。





まったく……。休日になると何でいつもこうだなんだ……。





行きたい所があるんなら俺に言ってくれればいいのに。 どこへでも連れて行ってあげるから。
そうでないと俺が1人っきりになってしまうじゃないか!!










寂しがりやの ウサギ










「ふーん。
 それであたしの居場所をわざわざお母さんに聞いたんだ。」





俺に冷たい視線を向けながら、紅茶に砂糖を少し入れると はクルクルとスプーンをかき回した。
カップにティースプーンが当たる、チリチリという音が時折静かな店内に響いた。
ディーノはばつが悪そうに、 そして目を合わせないようにしてカップに口をつけた。
そして飲んでからミルクを入れ忘れていたことに初めて気付く。





「俺だって退屈だったんだ。
 せっかくの休日だっていうのに とデートも出来ないなんて。」





俺には耐えられない





とディーノは続けようとしたが、生憎それは自ら躊躇ってしまった。
なぜならディーノの返答を聞いた途端に の顔が曇ったからだ。
あからさまに機嫌を悪くしたと言った方がいいかもしれない。
当然のように両者からため息も漏れた。





「あのさぁ、ディーノ。」



「……?何?」



「携帯電話っていう文明の利器をあなたは知ってる?」



「……。」



「ディーノ、また忘れてたでしょ?
 ホンットにお願いだからあたしに連絡してよ。」





そう言うと はカップに口付けた。
カップのふちにグロスの跡。
ディーノにはそれがとても甘美なもの思えた。





「……。」





紅茶を飲み終えると はすぐにカップを置いた。当然、カチャリと高い音がする。
一息つくと、店内の騒音で掻き消されてしまいそうな位小さな声で
恥ずかしいんだからね
とつぶやいた。
そしてディーノのカップが空なのを確認したかと思うと、 は立ち上がった。
ディーノは突然のことにビクッとする。





「ほら、立って。デート、行くんでしょ?
 今日はここも含めて全部、ディーノのおごりだからね。
 これでチャラなんじゃない?」





はディーノに笑いかける。
つられてディーノも笑ってしまった。
それを見ると ははなうたまじりに歩き出し、静かな店内から騒がしい外へと出た。
爽やかな風が吹いている。
が、日差しが強くなっている気がする。確実に、夏に近づいている。





日本の夏はじめじめしていてあんまり好きじゃないんだよなぁ





ディーノは心の中でつぶやいた。
隣で はうーん、とうなりながら指を折っている。





「映画はこの間一緒に見に行ったばっかでしょ?
 ねぇ、ディーノはどっか行きたいトコってある?」



「あー、そういえばさ、こないだ面白そうな雑貨屋見つけたんだよ。
 変わったものいっぱい置いててさ、 ならきっと気に入るだろうなって……」










2人の声はたくさんの声の中に紛れていった。