まだ孵っていないタマゴでも羽根さえついていれば翔べるんだよ。










羽根ありタマゴ










天蓋の付いたベットに気だるそうに寝そべる美しい少女。 彼女はこの国の姫だった。 独裁政治を行っていた王は敵が多く、当然のことながら命を狙うものも中にはいた。 王は溺愛していた娘である姫が敵の手に落ちることを恐れ、自分自身の手によって彼女を拘束した。 そう。王は愛娘を幽閉したのだ!! 王は城の最上階にある部屋から姫を決して出さなかったのである。 彼女はバルコニーから外を見るたびに自身も外に出たいと心から思い、自由を願った。 口を開けばお世辞ばかりの使用人と話すことにはすぐに飽きてしまうし、城内にあるあらゆる本を読みつくしてしまった。 しかし時間は余るばかり。 時折窓辺に現れる鳥に向かって話すときが、姫にとって最も心が休まるときだった。




















ある日、大きな隊列が城に向かってやってきた。 姫は見慣れぬ衣装を着た隊列を不思議に思ったが、気に留めていたのは僅かな時間で、 すぐにまたいつもの様にできもしない城からの脱出計画を練ったり、おとぎ話に出てくるような王子が自身を助け出しに来るというストーリーを空想したりし始めた。




















バンッという大きな音を立てて扉が開いた。 扉の開け方も知らないのか、と言おうとして彼女は口を開けたが振り返った瞬間につぐむ羽目になってしまった。 なぜならそこに立っていたのは予想に反する人物だったからである。 使用人ではもちろんない。もちろん父である王や、母である妃でもない。
黒光りしている銃器を持った軍人だったのだ!!
金髪碧眼の端正な顔は姫がいつも空想するおとぎ話の王子と遜色ないのだが、そのいでたちは物騒そのものである。





「大人しくしろコラ。」





そう言うと彼はマシンガンを少女に向けた。





「お前、何者だコラ。」



。この国の姫。」



「……本当か?」





疑っているというよりは信じられない、といった感じで軍人は言った。 もちろん に嘘をつく意味などないことは彼も承知している。 しかし彼が図らずもそう言ってしまったのも当然である。10年もの間、彼女の存在は社会的には抹消されていたのだ。





姫。」



でいいわ。」



「……。んじゃあ 。今の状況からわかると思うが、俺たちイタリア軍をはじめとする連合軍によりこの城は陥落した。この国は終わりだ。」



「じゃああたしはこの城から出られるの?」





姫は目を輝かせて言った。
軍人には彼女の表情と、その言葉の意味が理解できなかった。 それこそ彼女が口を挟みさえしなければ「つらいだろうが……」と言いかけた位だ。





「えっ……。」





思わず聞く。





「それはどういうことだ……?」



「えっ?それは……外に出られること位がどうしたのかっていうこと?」





自嘲気味に彼女は笑う。





「7歳、のときからあたしはずっとここに1人きりよ。」





でもあなたたちのおかげでやっと出られる。










そうか……。





軍人は口元に笑みを浮かべながら呟いた。





「よっしゃ、じゃあ 姫。オレと外の世界へ飛び立とうか。お前のことはオレが守ってやるから。」



「まるでプロポーズみたいね。」





くすくす笑う姫と軍人。




















彼らの恋はまだタマゴ。これから孵さなければいけない。