ある日突然あたしの前に現れたその男からあたしはどっぷりと底なし沼にはまるみたいに逃れられなくなってしまった。
彼が消えてしまった今もそれは……。




















馬鹿な話だっていうのは自分が1番よくわかってるつもりだ。 今まで15年生きてきたんだ、一応。 恋愛だってこれまでも何回かはしてきた。 確かに骸みたいにある日突然あたしに何も告げることなくあたしの目の前から消えてしまったような男はいなかったけれども……。





ひょっとしたら恋をしている気になっていたのはあたしだけで、骸はそんな気持ちなんてこれっぽっちも持ち合わせてなかったのかもしれない。 そうだったらあたしはきっともうあきらめることだってできるのだろうけど、それを確かめる術は、今はもう……。




















毎晩とまでは言わないけれど、骸のことを頻繁に夢に見るのだともし仮に骸に言えたとしたら骸はあたしを笑うだろうか。 もしあたしが骸の立場だったら 「お前バカだろ?もう戻ってこない人をいつまでも待ってどうすんだ!」って笑い飛ばすかもしれないし、 涙を流して謝るかもしれない。 「勝手に消えたりしてごめんなさい。」って。
どちらも骸は言いそうにないな、と思った後に、まぁどちらにしてもあたしの妄想に過ぎないんだけど。なんて自虐的な思いが頭をよぎった。





あたしの神を優しく撫でたり、そっとキスしてくれたりそういうことをしてくれる人はもう……。





身体の内側から融け出してしまうような思いをすることはもうないのだろうか……?




















そしてまたあたしは骸の夢を見た。
たった1人でどこなのか全く見当の付かない草原で呆然と立ち尽くしているあたし。 骸は突然現れて何か言いながらあたしの傍によって来た。 何を言っているのかは全然聞き取れない。 けどよって来た骸はいつもあたしにそうしたように優しく髪をすいてくれて、それだけであたしは泣けそうな位嬉しかった。 けれどもいつもならそのままキスをしてくれる所なのに、一瞬戸惑ってからむくろはあたしからゆっくりと身を離し、 そして手を振るとどこかへ消えてしまった。 それは朝靄が晴れるみたいに自然に少しずつまるでなくなるみたいな消え方だったから、 もちろんのことあたしは状況が飲み込めなくて、再度呆然としてしまった。 慌ててむくろを追いかけたんだけど、いくら探しても骸は見当たらない。 その内にあたしはわけのわからない場所で迷ってしまう……。










なんて夢だろうって自分でも思う。
でも案外的を射ている気がしないでもない。
だって愛って行く末は迷うばかりなんだよ、きっと。 まっすぐ進めばいいのに。










遭難










まっすぐ進めばいいなんて言ったけど、結局それって 前に進むべきか後ろに進むべきか、それとも左右だったりっていうことになって迷って、遭難。なんていう状況に陥ってしまう羽目になるんだけどね。