「ねぇ、今日の夕飯どうしようか?」 「……考えるのめんどい。」 「それ、何でもいいってこと?」 あたしがそう聞くと、千種は小さくうなずいた。こくり。 「何でもいいっていうのが実は1番面倒なんだよー。」 あたしがそう言って路傍の小石を蹴ると、千種も(本当に珍しいことに)乗ってくれて、あたしが蹴った石を更に遠くまで蹴り飛ばした。 アスファルトと転がって、こつ、という軽い音が鳴る。 「犬ちゃんか骸さんに聞いておけばよかった。」 「そう?」 「え、何で?」 「だって犬は肉が食べたいとしか言わないし、骸様は小難しいカタカナ料理の名前を言いそうだから。」 千種は真顔で淡々と言う。 あたしは千種が蹴った石をもう1度蹴った。 石はまっすぐ進まなくて、排水溝に吸い込まれるみたいにストンと落ちた。 ストーン。石、か。 あまりにくだらなくてあたしは千種にそれを言う気にはならなかった。 「じゃあ千種が考えなきゃいけないみたいね。」 あたしはそう言ってアスファルトから視線を空に移した。うっすらとだけど、虹が架かっている。 「千種。」 「何。」 「虹だよ。」 「うん。」 さっきみたいに乗ってくれればいいのに。 「消えちゃうよ?」 「いいよ、別に。」 あたしは千種の言葉に対してむすっとした表情を返した。 「オレには虹なんかよりももっと見ていたいものがあるんだよ。」 「何?」 「……恥ずかしいから言えない。」 「えー。」 「ごめん。」 またいつか言うよ、と千種は言うと、顔を上げて虹を見ると、きれいだけど物足りない……と呟いた。 「どきどき、しないんだよなぁ……。」 |