まるでバケツをひっくり返したみたいな土砂降り。 まだ昼間だというのに外は鉛色の雲が一面覆っていて、真っ暗。
なんとも言えないような、胸がざわつく感覚があたしを支配している。
こんな日にいくら髪の毛をセットしたりしても無駄だって頭ではわかっているんだけど、 いざ骸に会うとなると、娼婦なんてしててもやっぱりあたしも女の子だったのかなぁ……。なぜだか自然に鏡を覗き込んでしまうのだ。




















かばんとビニール傘だけ持って、約束の場所へとあたしは向かう。
暗くって、少し肌寒い。 雨水はあたしを容赦なく濡らすけど、あたしはさほど気に留めず歩を進める。
心は高揚しているのか、怯えているのか自分自身のことだというのに、よくわからない。
きっとアップダウンの繰り返し。
だって電話越しの彼は何かを決めかねているような口ぶりだったから……。




















彼はもう約束の寂れたカフェにいて窓際の一番眺めのいい席に座っていた。





「待った?」



「いえ、ほんの10分ほどですから。それよりも雨、大変だったでしょう?」



「まぁ……。でもそれほど気にならなかったわ。」



「それはよかった。」





そう言うと、骸はコーヒーを飲みほした。





「早速ですが、僕には時間がないんです。」



「それはまた突然ね。」



「いつ追われ始めるか僕には予測するしかありませんから。」



「じゃあ……何処かへ逃げるの?」



「そういうことになりますね。」



「そう……。」





店内に流れているジャズだけがあたしの耳に入る。
骸は憂いのこもった眼差しで窓の外を眺めている。
相変わらず外は土砂降りで、真っ暗で……。





「僕たちと一緒に行きませんか?」



「え……いいの?」



「あなたも逃げたいのでしょう?」





こくり、と頷くと、骸は優しく微笑んで、あたしの手を取った。










闇に降る、雨。










外は真っ暗闇の中、土砂降り。あたしたちは溶けて消える。





雨が降っている朝、目覚めるとあの日のことを思い出す。
今でもあのときの想いは変わらない。



『彼に、そして彼についていくと決めたあたしに何が起ころうとずっとついていく。』



隣に眠る彼を見ると強く思う。
だって、あたしを救ったのはあなたへの想いだから。










IMG SONG:闇に降る雨