「そういえばさ……カルカッサ、今度抜けるんだって……?」





あたしが突然切り出すと、スカルさんはそれなりに驚いたらしく目を見開いてじっとこっちを見た。
……まぁあたしたちみたいな下っ端にはまだ言われていないはずだから、彼が驚くのも不思議じゃないわけだけど。





「け、契約期限が切れただけだ……!!それに無職ってわけじゃねぇぞ!!次に指揮を取るマフィアももう決まってる!」





スカルさんは妙に感情的に言った。
そのこと自体はあたしにスプーン1さじにも値しないような驚きをもたらしただけだ。
けれども、大体お前みたいな下っ端には関係ないだろ、と後から付け加えられた言葉には少しばかり傷付いた。





少し……?





いや、それは嘘だ。割りと傷付いている。
手が震えているからか、持っていた氷しか入っていないグラスがカランと渇いた音を立てた。 ほんのちょっぴりの水分のせいか、グラスの縁を沿うように動いている。





「……別にあたしたちって契約の上でしか繋がっていないんだから、裏切っただの何だのって言わないって。」





嘘だ。皮肉だ。





今のあたしは裏切られた気分だ。なんて傲慢な被害妄想だろう。
そのくせ、興味ない、という姿勢を崩さないんだから、あたしはなんて性質の悪い人間なのだろうか……?





「……それならもうオレは何も言わねぇよ。」





あたしは冷たくて暗い青色のライトに照らされた手元のグラスを眺める。
あたしは青というよりは蒼だな、とぼんやり思った。
今の気分にもぴったりだし、と。





「んじゃオレはもう帰るから。」





代金は払っとくから潰れねぇうちに帰れよ。と目の前の軍師は言った。
スツールから立ち上がるのをあたしは眺めている。なぜかスローモーション。 まだあたしの手の中にあるグラスの中身の氷は溶けてしまっていた。





蒼色グラス





あいつはオレの気持ちなんてまるで気にしていないようだった。
裏切り者だと罵ってくれりゃいっそ想いが実らずとも告白位はできたろうに。





僕等を嘲笑うかのように、ただただ冷たい蒼のグラスはそこにあった。