キャンディー、マシュマロ、マーブルチョコにクッキーエトセトラ。 白蘭様のテーブルの上には白地にきれいな花柄が描かれたまあるいプレートが並べられ、その上にはカラフルなお菓子がたくさん乗せられている。 (そう、クッキーまでもカラフル。 だって焦げ茶色のチョコレートクッキーの間にミントグリーンやレモンイエロー、 ストロベリーピンクのクリームが挟まっていたりするのに、カラフルと言わずに何と言うのだろう……?) 幾ら甘党の彼と言えどやはり全て食べきることは出来なかったらしく、 (というかそもそも全てを食べきるつもりがあったとはとても思えない。 なぜなら彼はどれもこれも1つずつつまみ、 彼のお気に入りのマシュマロ(彼が言うマシマロ)でさえも更に1、2つを食べるだけ、っといった感じだったのだから。) 白蘭様は今となってはお菓子で遊んでいる。 例えばSYOHCHAN (多分入江隊長、だ) などとマーブルチョコレートで好き勝手に並べたり、 丸みを帯びて不安定なマシュマロをそうっといくつか立たせた後にドミノみたいに押し倒してみたり、そんな感じ。 あたしは「食べ物を粗末にしては云々かんぬん」などと言う気は毛頭なく、ただそれを少し離れた所でぼうっと眺めている。 リッピのおかげでわけのわからない書類の処理から解放されたのだ。わざわざ頭を使う必要などない。立っているだけでいいのだ。こんな楽な仕事はない。 リッピは白蘭様の話相手になるのは難しいだなんだと言っていたような気がするが、そういうわけでもないじゃないか。 そもそも彼はあたしと話す気なんてないのだから。 彼と交わした会話は 「初めましてこんにちは、白蘭様。本日伝達係のレオナルド・リッピの代理で参りました第2ローザ隊F級の です。」 「うん、よろしくね。 チャン。」 「はい、よろしくお願いします。」 「ねぇ、正チャン元気してた?」 「はい。病気だとかそういったことは伺っておりません。」 「 チャン、僕お菓子食べたい。マシマロとかなんでもあるもの持ってきて。」 「畏まりました。」 ……うん、上司と部下の間柄にしても少ないな。とあたしは思うけれど、話せば話したできっとリッピの言う通り気を遣うことになるだろうから、やめた。 色とりどりで美しく、でも、だからこそひどく身体に悪そうなそれらを無表情に眺めることに専念する。くるくると目まぐるしく配置が変わり行くそれ……。 どの位たっただろうか?あたしが欠伸をかみころすのにぎゅーっと目をつぶった後、目を開けるとテーブルの上にはマシュマロでVONGOLEの文字。 不穏だなぁとぼんやりした頭で思うと、本当になった。 がしゃあんという音とともにお菓子が、プレートの破片が、テーブルからこぼれて床に広がった。 一瞬何が起こったのかわからずに混乱、呆然とした後、あたしは目の前の状況を飲み込み片付けを開始しようとした。 白蘭様は何を考えているのかわからない。不機嫌らしいということしか、彼と関わりの薄いあたしにはわからなかった。 彼はあたしに冷ややかな視線を向けていた。 「(……入江隊長ならわかっただろうか?)」 自問したけれど、答えはわかりきっていた。答えはノー、だ。 白蘭様はフランクに接しているけれど、その実本当は本気で仲良くするつもりなどないのだから。 「……らい?」 「はい?」 「 チャンは僕のこと、キライ?」 白蘭様は相変わらずあたしを射るように見つめている。あたしはその三白眼に目を奪われる。動けない。呼吸さえままならない……。 「……どう、なさいましたか……?」 「答えて。」 彼はあたしの横に座り込むと、鋭く言い放った。でもその表情は哀しそうなものへと変わってしまっていた。 苦しい苦しい。 でもそれすら妙に心地よくなる。 張り詰めている何かが横たわっていて、あたしも白蘭様もそれを崩したいとどこかで願っているのが、ソレを通じて伝わる。 「ねぇ、」 白蘭様はマーブルチョコを1つつまむと、あたしの唇に押し付けた。 くちびるにつるりとした感触と、ひやりとした感覚が奔る。 白蘭様は手付きを激しくし、無理にあたしの口にチョコを入れた。そして、覆いかぶさる。 バラバラジャラジャラ乾いた音が耳元で鳴る。生る。 彼は反対の手であたしの顔の横にその大きな手いっぱいに握ったマーブルチョコを降らせたのだ。 あたしの口の中で甘いものが溶け出す。 それはもうすぐあたしの身体の外へと流れ出してしまうのではないかと錯覚する。 「びゃく 「もう黙ってよ。声を出す位なら喘いで。」 くらくらする。 ちかちかする。 あたしは沈む。 極彩色の世界へ。 |