アンタもうオレから逃げられるなんて思ったら大間違いだよ。 無駄って言葉をいい加減覚えれば……? 窓からは一切の光が入らないじめじめとした狭苦しい部屋にオレはいる。ランプがあるにはあるのだが薄暗いと感じる程度の灯りしかもたらさない。 薄気味悪い部屋だ。 自分で外からの光を遮ったり、血みたいな赤のカーペットをひいてみたりしたオレが言うセリフじゃない気がするけれど。 何でこんな不快になる部屋に来たんだっけ……?と思い出そうとしてオレは部屋を見渡す。 ぐるり、と反時計回りに見回したがわからない。あれ、と思ってから刹那、オレは気付いた。 遊びにきたんだ。 自分が今腰かけているベッドには死んだように動かないモノ、オレの玩具の人形が横たえられている。 そうだ。人形遊び!! この部屋が狭苦しいのは人形の家だからだ。もうしわけ程度に隅っこなベッドがあるだけの簡素な造りになっているのも、全部、人形の家だからだ。 しかしそこでまたオレに新しい疑問が浮かぶ。 人形の名前は……? キャロラインじゃなくてカロリーヌじゃなくて……そうだ だ。 バラバラとベッドに広がった の長い髪を弄びながら、簡単に から期待を奪ってしまったのは浅はかだったなぁとオレは少し後悔した。 月並みに言うと雪みたいに真っ白な肌を は全て晒している。 オレはそれが眩しく感じられて、落っこちていた毛布をかけてやった。それでも は身動ぎ一つしない。 そもそもなぜ がこんな姿をしてるのかと言うとオレが脱がしたからにほかならない。 まぁ言ってしまえば犯したわけだ。 普通なら痕つけてみたりするとこなんだけど の場合そんな所有の印つけた所で関係ないからオレは真っ白のきれいなままで保存している。 はオレがタイセツニ扱うからきれいな人形のままだ。 とは言っても本来の美しさが失われていってしまっていることを薄々オレは感じている。 髪がパサパサして艶がなくなったとか、 ご飯をいくらあげても食べなくなったせいで元々痩せていた身体が更に(要するに病的に)痩せたとかそんなことじゃなくて、だ。 簡潔に言うと表情がなくなってしまった。 どこを見ているのかわからない。遠くのどこか、ただ1点をただ見ているだけだ。 ハハハ本当に人形になったらしい。 オレがそうなることを望んだはずなのに、オレは今少し後悔している。 らしい。 こんな動かないダッチワイフなんかじゃなくて、ちゃんとオレに笑顔を向けてくれる でいてほしかったんだろう。 と今更思ってももう遅いわけで……。 「アンタもうオレから逃げられるなんて思ったら大間違いだよ。無駄って言葉をいい加減覚えれば……?」 ここに連れてきたばかりの、まだ元気だった頃の に言った言葉を呟く。 オレの言う通りに、 は無駄を知ったからもう動かない。 うごか 「あれ……?」 の皮膚に触れた瞬間のひやりとした感触・温度にどきりとする。 その感覚は初めてではない。 どこかで、いやむしろいつも、よく感じる感覚なのだ。 「死……?」 そう、だ。きっと。オレが今まで数え切れない程接してきた、死。それがオレの目の前に湧いて出た。 「これで本当の人形……か……。」 殺戮王子の人形遊び 喜劇、とでも題そうか……? 悲劇にしては幸福過ぎる。 だってオレと はもうずっと一緒なんだから。離れない。朽ちるまで。 でもだとしたらこの涙は一体何…? |