拙者、実は悩みがあるんです。
あの……非常に申し訳ないんですが、どなたか誰かとお付き合いしていらっしゃる方がいらっしゃいましたら聞いてください。質問があるんです。 そ、その……非常に申し上げにくいのですが……き、キスしますよね……?お相手の方と。 実は拙者の相手は 殿という方なんですが、き、キスをした後にすごく……あの、言っていてとても悲しいんですが、嫌、そうな顔をされるんです。
これってどういうことなんでしょうか……? キスが嫌なんでしょうか?それとも拙者とのキスが嫌なんでしょうか?
あの……せ、拙者もあの、い、一応男、なんで……き、キス位したいんです。 (ほ、本当のことを言うともっとさきのこともしてみたいのですが、キスも嫌がられてるのかと思うと、ちょ、ちょっと……とてもじゃないですが、できません。)
あっ、でももちろん 殿が嫌だと言うようなら拙者やめられます! 殿と一緒にいられなくかるのが拙者は最も嫌ですしね!!










擦違いカウントダウン










「ごめんね、こんな時間にわざわざ送ってもらったりして。」



「いえいえそんなたいしたことありませんよ。拙者は七海殿が危険な目に遭うことが嫌なんです。だからこうしてお守りするのは当然のことなんです。」





相変わらず古風だなと言って 殿は笑った。どんどん 殿の家に近付いていく。 あーこの時間が永遠に続けばいいのに、と拙者は思う。 けれどそんなことを考えている間に無情にも彼女の家についてしまう。 横並びだった拙者たちの位置関係は向かい合う形になる。 無言の内にゆっくりと顔を近付け、ついには唇を重ね合わせた。
数秒の後、名残惜しいという拙者の気持ちを表すかのように、唇はゆっくりと離された。 殿の閉じられていたまぶたがゆっくりと開けられる。





「じゃ、じゃあね。バジル。また明日。」





殿はそういって手を振ると、家の中へと入ろうとした。
刹那。
拙者右手は無意識の内に 殿の左腕を掴んでいた。当然驚きの表情で 殿は振り返る。





「どうしたの……?」





不審そうな顔で聞く。
やってしまった……。と勝手に動いた右手を苦々しげに拙者は見る。
でもやってしまったからには自棄、である。
勢いに任せて思い切って胸のうちを吐き出してしまう。





殿はキスが嫌なのですか?それとも拙者が嫌いなのですか?」





戸惑う 殿。切なそうな表情で拙者を見上げる。
そんな表情、しないで。




















「……すいません。取り乱したりして。」





もうしません。





拙者は 殿の腕をぱっと放した。





「ごめん、バジル。」



「いいんです。ではおやすみなさ



「待って。」





勘違いしないで、と 殿は俯きながら言った。





「き……キスの後の」





はぁ、と息をつく 殿。 拙者はじっと見つめることしかできない。





「ち、沈黙、が苦手なの……!!」





へっ……?










拙者が1人戸惑っていると 殿は、はぁやっと言えた、と胸をなでおろしていた。
拙者はまだ状況が飲み込めていない。





「ごめんね。バジル。」





へっ……?拙者はまたも間抜けな声を上げる。
状況が更に飲み込めなくなって、更に混乱。





「あたし、本当はバジルが勘違いしてたのに薄々気付いてたの。」



「それは……どういうことですか……?」



「それは……あの……もーだーかーらー何回も言わせないでよ……。恥ずかしい、んだから……。 あのね、バジルが嫌いなわけでもバジルのキスが嫌いなわけでも、キスが嫌いなわけでもないのっ!!」





拙者は不覚にも自分でも驚くほどに安心してしまって、まるで空気が抜けたみたいな間抜けな声が出てきた。





「えっ、じゃあ何で……?」



「だからさっき言ったじゃない!」





殿の顔は真っ赤。





キスの後の沈黙が苦手なのっ!」



「じゃ、じゃあ沈黙さえなければいいんですねっ!」










ちゅ










「今度はもっと先まで。」





それじゃまた!!










それとこれとは話が別でしょー!!と 殿に怒られたのは言うまでもなくって……。
……全く、今日の拙者はどうしたのでしょうか……。





(恋に溺れているだけだよ。)