彼ったら酷いのよ!! これまで1年以上あたしと付き合っといて、別れるときにあたしにかけた言葉、何だったと思う……? だってさ。 ほんと、バカバカしいにも程があるよね。 あたし、彼のこと、もちろんだけれども今更愛してなんかないわ。 だからもうあいつのことなんて本当にもうどうだっていいの。 むしろ早く忘れてしまいたいっていうか、記憶上から抹消したいしたいっていうか……あーもう何て言ったらいいんだろう。 えっ?じゃあ何でこんなにイラついているのかって……? そんなの決まってるじゃない。自分自身に腹を立ててるの。 『何であんな奴のためにあたしは時間を割いたんだろうか』ってね。 えっ?そんなの酷すぎるんじゃないかって? でもさぁ、所詮そんなもんでしょ?別れた男と女なんて。 けどね、なぜかわかんないんだけど少し悲しくてとても寂しいの。 ねっ、どうして?ねぇ、教えてよ…… 「ねぇ、バジル。」 「そんなこと拙者に聞かれましても……。」 「こんな相談するなんて、綱吉も山本も、ましてや獄寺なんてもっと無理でしょ。 となるともう残ってるのってバジルだけなんだもん。しょうがないじゃん。」 「……。」 「ねっ、どうしてだと思う……?」 バジルは困ったような顔をした。 端正な顔が少しだけ歪んだ。眉間にしわがよる。 綱吉だとか山本だとか獄寺だとかには絶対に見せない表情だななんてどうでもいいことがあたしの頭に思い浮かぶ。 「……まだその前の彼のことが 殿は好いておられるのではないでしょうか……?」 あたしはバジルの言葉に衝撃を受ける。 使い古された何かのギャグみたいだけれど、それこそ頭の上に金物の盥が落っこちてきたみたい。 ぐわぁんって今まさにあたしの頭ン中で鳴り響いている。痛い。 「……なっ、何言ってんのよ。……そんなわけないでしょ。」 バジルはまた困った顔をする。 むしろあたしのことを哀れんでいるのかもしれない。 素直になれない、かわいそうなこ、って。 「じゃあ生憎ですが拙者にはほかの理由が思い浮かばないのでお力添えにはなれません。」 あっさりと、しかも冷たくあたしはバジルにあしらわれた。 案外こいついい性格しているのかもしれない。 「バジル酷い。あたし、自分で思うの。あたしもうほかに好きな人いるんじゃないかって。 だからあまりの切り替えの早さに彼に罪悪感感じているんじゃないかって。」 あたしは支離滅裂なことを言う。 というか嘘、だ。 あたしはこんなこと少しも思っていない。 少なくとも彼にあんなに冷たいことを言われるまではかなり好きだった。 楽しいことも嬉しいことも、悲しいことさえも、彼とは全て共有したつもりでいた。 ずっと一緒だと信じ込んでいた。 結果的にそれは間違いで、あたしの単なる思い込みに過ぎなかったわけだけれども。 「それならその方といればよいのでは……?」 お名前、教えてくだされば拙者はいつでもご協力しますよ、とまでバジルは言った。 嘘でもいいから 好き、だといってよ。 拙者、知っているんです。わかっているんです。 殿が拙者に『好きだ、愛してる』等の言葉を期待しているのだと。 けれどもこのことも同時に知っているしわかっているんです。 殿が拙者のことを好いているからそのようなことを言って欲しがっているのではないと……。 だからたとえどんなに拙者が 殿のことを好いていても、 愛していても、好きだとは言えないんです。 |